「孫のためなら……」

 主人公の角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。夫と死別し、ホテルで清掃業をしながら、つつましく暮らしていた。同年代の同僚たちと他愛のないおしゃべりをしたり、たまにカラオケに出かけたりするのが楽しみだ。「プラン75」のことはまだそんなに真剣にはとらえていない。これまで通りの生活がそのまま、続くのかとのんきに捉えていた彼女の暮らしのなかに「プラン 75」は少しずつ浸透し始める。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 孫がかわいくてしかたない同僚が「孫のためなら考える」と言い始める。テレビからは「選んでよかった」的な、まるで青汁かサプリメントぐらいの体験者の声によるスポットCMが流れる。軽いといえば、仮設テントの申請窓口は携帯電話の申し込みのよう。それが高齢者の命の重さなのか。それでもある日突然、街角でPCR検査ができるようになった時と同じように私たちはその光景をあっさりと受け入れるのだろう。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 仕事があるうちはいい。社会から必要とされているように思える。だが、ミチと同僚たちは「お年寄りを働かせるなんて」という投書のせいで、解雇されてしまう。同僚の一人は「本当に投書なんてあったのかしら」と訝しがるが、それもまた日本ならあり得ることだ。

 以前、外国のエアラインを利用した時に、かなり高齢の客室乗務員の方が勤務しているのを見た。飛行機が揺れてもいないのに、志村けんさんのコントかと思うほど、足元がおぼつかない。外国人の乗客たちは誰からともなく、自分たちで機内食を配り始めた。

 これが日本だったらどうだろう。まず、日本のエアラインの客室乗務員はモデルのように美しく若い女性が中心だ。男性も珍しい。もしも、老人の乗務員がいたら。それこそコントなら通用するが、現実なら「お年寄りを働かせるなんて」と投書が行きそうである。お年寄りを大切にと高齢者を特別扱いするあまり、結果的に排除してしまう風潮が日本にはあるように思う。