©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 情報番組で、是枝裕和監督作『ベイビー・ブローカー』主演のソン・ガンホがカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したというニュースが流れた際、コメンテーターが「それよりも『PLAN 75』の方が気になります」と言葉を遮った。

 確かに『PLAN 75』は誰もが無関心ではいられない、他人事ではない作品だ。

現代の姥捨て山

 カンヌ国際映画祭ではある視点部門に出品され、初監督作に贈られるカメラドール スペシャルメンションを受賞した本作。カンヌといえば、83年に最高賞であるパルム・ドールを受賞した『楢山節考』が思い出される。70歳を超えた老人を子どもが山に捨てに行かねばならない、「姥捨て山」を題材にした作品である。

 当時、実際には40歳だった坂本スミ子が老婆を演じるために歯を削って役作りをし、大きな話題になった。その頃、10代だった私には相当なおばあさんに見えた70歳。一方、『PLAN 75』の主人公は78歳。時代とともに寿命は長くなり、見た目も昔と違って若々しい。それでも、やはり切り捨ての分岐点は70代。『PLAN 75』は現代の「姥捨て山」なのか。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 舞台は遠くない未来の日本。少子高齢化が進み、満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が国会で可決・施行される。

 その制度は物議を醸しながら、結局は受け入れムードになる。日本なら、さもありなん。あんなに不安がって大騒ぎしていたのに、始まると多くの人が行列してまで、コロナワクチンを接種しようとした国。他人に迷惑をかけてはいけない。狭い国に生まれ育った私たちはそう教わり、言われなくとも相手の気持ちを慮り、それが美徳とされてきた。

 果たして、長生きは迷惑なのか。若者のため、子どもたちの未来のため、75歳以上の人たちは命の選択を迫られる。