是枝裕和監督の新作『ベイビー・ブローカー』でも話題になった、生みの親か、育ての親かという問題。『ベイビー・ブローカー』は赤ちゃんポストに子どもを預けた若い母親と、その子で金儲けをしようとした養護施設出身の若者と家族に見捨てられた男性が一緒になって、買い手となる養父母を探すロードムービー。幸せな家庭を知らない者たちがいつしか血の繋がりに関係なく、家族の体を成していく様はまさしく韓国版『万引き家族』。家族をテーマにし続けている是枝監督は『そして、父になる』でも子どもを取り違えられた二組の家族を軸に、家族に必要なのは血縁関係だけではないのではないかと訴えかけた。
監督の実体験を元にした物語
血の繋がった実の親vs環境を与えてくれる育ての親。『1640日の家族』はファビアン・ゴルジュアール監督が子どもの頃、両親が生後18カ月の子どもを里子として迎えて6歳まで一緒に暮らした実体験がもとになっている物語である。一方で、監督は福祉関係者や里親とのインタビューによって得た、子どもの誕生後、すぐに母親が亡くなり、打ちのめされた父親が子どもと引き離されたエピソードも参考にしている。
アンナは里子のシモンを受け入れて、4年半。生後18カ月でやってきたシモンを自分の子どもたちと分け隔てなく育て、今では長男と次男とまるで兄弟のよう。親戚や友人たちも3人に差別することなく、接してきた。
ところがある日、シモンの実の父親がまた息子と暮らしたいと申し出る。シモンを出産後、母親が死亡。どん底状態になって、子どもを手放した父親だが、いまは生活も安定してきた。ところがアンナは突然の申し入れに愕然とする。
里親制度とはさまざまな理由で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れて養育する制度で、養子のように法的な親子関係はなく、実親が親権者である。週末は実の家族と過ごし、平日は里親の家庭で過ごすなど、さまざまなケースがあるが、あくまでも「実の親から一時的に預かる」というスタンスである。