息子の大統領就任で目に浮かぶイメルダの狂喜ぶり

 そして投票日。有権者の関心は極めて高く、各投票所には長い列ができていた。誰に投票するのかと、横からあからさまに覗き込まれて、「NO! NO!」などと抗議する声も聞こえて来るからおかしい。

 なにより驚いたのは、ある投票所では投票用紙の入った投票箱を軍の兵士が奪っていったという話だ。それに対抗して修道女たちがしっかりと投票箱を抱え込んだたり、人間の鎖を作って投票箱を守ったりする投票所もあった。公然と不正が行われていたのだ。

軍兵士達から投票箱を必死で守る市民達(写真:橋本 昇)
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 選挙管理委員会は「マルコス勝利」を宣言したが、不正選挙の開票結果に国民も黙ってはいなかった。100万人規模の民衆デモが連日大通りや宮殿に押し寄せ、とうとう軍の将校たちもマルコスに反旗を翻し、アメリカもマルコスを見限った。これが1986年の二月革命の顛末だ。そして、コラソン・アキノ氏が20年にわたるマルコス独裁政権に代わって第11代大統領に就任した。

 私を含めてあの二月革命を取材したジャーナリストにとってフィリピンは愛すべき国だ。明日は明日の風が吹く、という陽気で、お気楽で、目立ちたがり屋の多い国。彼らは問題が山積みでもそれぞれが持つショックアブソーバーではね飛ばすのだ。

 今回の選挙でボンボン・マルコスが大統領に決まった事についても勝手な推察だが、「案外、ドゥテルテよりもましだろう」というくらいの感覚なのかもしれない。いずれにせよ、目に浮かぶのは、92歳でいまも健在のイメルダ夫人の狂喜ぶりである。