マラカニアン宮殿に残っていた生々しいマルコス一家の生活の息遣い

 翌日、私はマラカニアン宮殿のマルコス一家のプライベートルームに入った。正確には、混乱で警備もされていない裏のドアから勝手に入ったのだが、そこには昨日までの大統領の生活が生々しく残っていた。

 宮殿の内部はもちろん贅をつくした調度品で飾られていたが、それよりも目を引いたのは、イメルダ夫人の豪奢な生活ぶりを表わす品の数々だった。女性物の靴が大きな棚に所狭しと並べられ、その棚が5列続いている。クローゼットの色とりどりのドレスも、山と積まれた下着類も、香水も、何もかもが想像を絶する数で揃えられていた。

新品のドレスが約200着。ヒールは多すぎて数えきれなかった(写真:橋本 昇)
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 総大理石のバスルーム。浴槽の脇の籐の籠には剥き出しの石鹸が100個は積まれていただろうか。むせ返るような石鹸の香り。

 大統領夫妻はよほど慌てて逃げ出したのだろう、キングサイズのベッドの上掛けが乱暴にめくられ、シーツの上には宝石箱が散乱し、その中に女性物の金時計が落ちている。そして食堂のテーブルには、食べかけの皿いっぱいのキャビアが残されていた。

マルコス夫妻のベッドルーム(写真:橋本 昇)
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よほど慌てたのか、山もりのキャビアが残されていた(写真:橋本 昇)
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