「第2のディープシーク」として注目された中国発の生成AIスタートアップ・マナス(写真:VCG/アフロ)
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(蛯谷 敏:ビジネスノンフィクション作家・編集者)

 創業からわずか3年のスタートアップについた値段は20億ドル超(約3000億円超)——。2025年12月、米メタがシンガポールに拠点を置く人工知能(AI)企業、Manus(マナス)を買収した推定金額だ。日本のDeNAの時価総額に匹敵し、メタが買収したスタートアップとしてはインスタグラムやワッツアップに次ぐ歴史的な規模となる。

 発表後、マナスの共同創業者の一人である肖弘(Xiao Hong=シャオ・ホン)氏は「成功が誰の目にも明らかになる前から、私たちを信じてくれたすべての人に感謝する」とSNSに興奮気味に投稿した。サービス開始から約8カ月で到達した巨額のエグジット(売却)は、近年稀にみるサクセスストーリーだろう。

 ただし、この買収劇は単なるAIスタートアップの成功物語にとどまらない。この数年の間に着々とAI人材の誘致戦略を進めてきた、シンガポール政府のしたたかな勝利でもあるのだ。

続々とシンガポールに“転籍”する中国企業

 報じられている通り、マナスのルーツは中国にある。

 中国の百度(バイドゥ)や米アマゾン・ドット・コムで経験を積んだホン氏らが、2022年に北京で「北京蝶変科技(Beijing Butterfly Effect Technology)」を創業した。その後、2025年3月にリサーチやサービスの自動化などをAIで支援する汎用AIエージェント「Manus」を開始。その使いやすさや性能の高さから、利用者を急速に増やした。瞬く間にディープシーク(DeepSeek)などと並んで、中国発のAI企業として知られる存在となった。

 ところが、サービス開始から半年も経たないうちに、マナスは拠点をシンガポールに移す。移転を機に北京オフィスは閉鎖し、120人ほどいた社員を40人に減らした。中国企業と進めていた開発プロジェクトも中止したと言われている。

「シンガポール企業」へと看板を掛け替えた理由をホン氏は公の場で語ったことはないが、米国と中国の緊張関係が理由の一つであることは想像に難くない。