シンガポールでAIスタートアップを創業した、ある中国出身の起業家は言う。
「グローバル展開を志向するほど、現状は中国企業という“ラベル”が足かせになる」
特にAI関連の分野では、目下の政治状況では中国企業として事業を拡大しても、欧米市場でのサービス展開は困難を極める。「早くから海外展開を目指していたマナスにとっても、状況は近かっただろう」とこの起業家は推測する。
そんな中国の起業家にとって、シンガポールは魅力的な拠点に映る。米国を始めとする主要国にアクセスでき、国としての信頼性も高い。地理的に中国に近く、税制面での優遇もある。さらに、近年彼らを引きつけているのが、政府が積極的に進めるAI人材誘致策なのだ。
最低月収は約330万円、周到に用意したAI人材誘致策
シンガポール政府は2023年に最新の国家AI戦略「National AI Strategy(NAIS) 2.0」を発表している。金融やテック同様、AIの分野でも人材と情報のハブになることを掲げ、今後5年間で10億シンガポールドル(約1150億円)を集中投下する。AIに関わる仕事に就く人材を、2029年までに現在の3倍にあたる1万5000人規模に増やす計画だ。
人材招致の目玉として新設したのが、2023年に開始したONE Pass(ワンパス)と呼ぶ高技能人材向けの就労ビザだ。
最低月収は3万シンガポールドル(約330万円)という条件はあるが、最長5年の滞在許可を与え、複数企業での同時勤務を認めるなど、従来の就労ビザよりも大幅に自由度を高めたビザで高度頭脳を囲い込む。
さらに、世界的に著名なAI研究者の招聘を想定した大学での客員教授制度や、2021年に始めたIT分野の人材誘致を促す就労ビザ「Tech Pass(テックパス)」なども用意し、スキルや経験の豊富なAI人材の受け入れを積極的に進めている。