煙草売りにあこがれるゴミ拾いの少年
その豪奢な生活のむせるような残り香を目の当たりにすると、前回のフィリピン取材で訪れたスモーキーマウンテンのことに思いが移った。
スモーキーマウンテンというゴミ集積地で暮らす人々は、まさに極貧中の極貧だった。大人から子供まで、人々は背に籠を担いでゴミの山を登る。ゴミの山のあちこちから煙が上がって燻っていた。だからここはそもそもスモーキーマウンテンと呼ばれている。
ゴミを満載したトラックがやって来ると、人々はそこに群がり、金目の物やビニール袋、紙、などを次々に籠に放り込む。そしてまた次のトラックを待つ。
彼らは皆、バラックに住んでいた。そこら中から湧き出すメタンガス、顔にまとわりつく蠅、澱んだドブ、犬の死体……その場に少しいるだけでも全身が痒くなるような環境で多くの家族が暮らしていた。
アンディという10歳の男の子と知り合った。
「僕の家族は6人、4年前にネグロス島から来たんだ。父さんはさとうきび畑で働いていたけど、そこをクビになってマニラに出て来たんだ。ネグロスにいた時もいつもお腹を空かしていたけど、ここでも仕事はないんだ」
アンディは夜明け前に起きてパン粥で朝食を済ませ、昼までゴミ漁りをする。そして午後は繁華街に向い、紐をつけた磁石で古釘を拾う。古釘も貯まると300ペソぐらいにはなる。彼はりっぱな稼ぎ屋だ。彼は一日でもはやくゴミ漁りから抜け出して煙草売りをやりたいのだが、まだ元手が全然足りていない。スモーキーマウンテンに暮らす子供達にとって煙草売りは憧れの仕事なのだ。
マニラの美しい街並みのすぐ側にある、この極貧生活。これがフィリピンの現状だった。しかし、ここでも金持ちには極貧の生活など見えていない。
イメルダ夫人にはこんなエピソードがある。
市内の中心部に近い大通りに面したスラムに住むおやじさんが語ってくれた。
「確かアメリカ大統領が来る前だった。空港からマラカニアンまで大統領の車列がここを通るというんだ。イメルダは俺たちのスラムがアメリカ大統領の目に入るとみっともないと思って高い塀を造って通りから俺たちの家を隠したんだ」
まさに臭い物に蓋という事だ。