一方で、領土を守るために立ち上がったウクライナ国民の意志について、プーチン氏も評価を完全に誤った。
「しかし西側がウクライナを直接支援する気概を見せることにどれだけおびえているかという点で彼は的確に判断していた。私たちはプーチン氏にウクライナに侵攻しても罰せられないというゴーサインを与えた責めの一部を負う。キーウ近郊のブチャや南東部の港湾都市マリウポリなどでの大量虐殺、戦争犯罪、ジェノサイドにつながった」
この事態を受け、イギリスをはじめ東欧諸国、バルト三国などNATOのいくつかの加盟国は集団的なためらいから脱却しつつある。ウクライナへの武器供与も範囲を広げて強化している。
「ロシア軍が撤退すれば戦争はさらに暗い章に突入する」
エルウッド氏はこう続ける。
「西側はウクライナが戦争に負けないよう支援しているが、彼らの勝利を確実にするのに十分なことはできていない。ポーランドによる旧ソ連製戦闘機ミグ29供与の提案がよい例だが、いくつかの加盟国が先陣を切ってNATOの集団的なためらいを打破すべきだ。イギリスは装甲車を送ることを検討しているが、NATOの枠外だ」
エルウッド氏は、西側はもっと本腰を入れてウクライナを支援しなければならないと言う。
「私たちがなすべきことは有志連合を作ることだ。時間はなくなってきている。ロシア軍が撤退すれば戦争はさらに暗い章に突入する」
ロシア軍は部隊を再編成して東部戦線を強化している。黒海に面した南西部の港湾都市オデーサ(オデッサ)侵攻を準備している可能性がある。オデーサが落ちればウクライナは陸の孤島となり、穀物を輸出できなくなるだろう。
「そうすればプーチン氏は自国民に勝利宣言できる。ロシアの脅威はさらに拡大し、数年先まで続くだろう。これを防ぐにはウクライナが確実に武器を受け取って紛争の行方を決められるようにすることだ。私たちはウクライナから世界への穀物供給を確保するためにNATOの海上部隊にオデーサの港を守らせることもできるはずだ」
NATOの海上部隊を派遣することは、プーチン氏とクレムリン、ロシア国民に対して、マリウポリの戦いのような惨状はオデーサでは繰り返させないという明確なメッセージを送ることになる。西側がウクライナ支援を強化していることを示すこともできる。
しかしエルウッド氏は声を落として言った。「正直に言おう。これはおそらく実現しない」と。
クリミア戦争(1853~56年)では英仏とオスマン帝国とが手を組んだため、英仏艦隊は黒海に自由に出入りしてロシア軍を撃破できた。しかし今回トルコは、黒海が戦場になるのを恐れてNATO加盟国の艦艇の通航を拒否している。トルコも原油・天然ガスのロシア依存国なのだ。マリウポリ陥落が目前に迫った今、オデーサが次の標的になるのはほぼ間違いない。