PCR検査体制をどうすべきか、パンデミック初期には活発な議論が行われていたが、現在は話題にのぼる機会は激減している。しかし、将来の新たな感染症への対策も含め、今だからこそ考える必要あるのではないだろうか。その議論の前提となるPCRの原理・意義を、讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が長原光・済生会栗橋病院長に訊いた。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第81回。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まった2年前、PCR検査体制が不十分で諸外国に比べて検査数が少ないことが問題視され、さまざまな議論が巻き起こりました。
その後、検査体制は拡充されたにもかかわらず、オミクロンが急速に感染拡大した今年1月半ば以降、PCR検査試薬の不足や検査がなかなか受けられない検査難民が問題になりました。
検査体制をどのレベルまで構築すべきなのか、あらためて議論が必要に思います。そこで、肝臓がんの臨床と基礎研究に同時に携わり、PCRを初期から使われてきた長原光・済生会栗橋病院長に、PCRの原理・意義を伺いました。
PCRの原理
讃井 まず、PCRの原理からお教えください。
長原 PCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)は、非常に微量な遺伝子(DNAの中の遺伝情報を持っている部分)を増やすことができればさまざまな解析が簡単になるということから、1980年代にアメリカで発明された技術です。
DNAは相補的な2本の鎖がくっついた二本鎖で形成されているのですが、これに95℃の熱を加えると二本鎖が離れて1本ずつの鎖になります。その後、65℃~55℃まで温度を下げると、あらかじめ溶液の中に入れておいたプライマー(DNAの小さな断片)が1本になった鎖にくっつきます。これをアニーリングといいます。
アニーリングの後、再び温度を72℃に上げると、あらかじめ溶液の中に加えておいた酵素(DNAポリメレース)の作用でプライマーが伸長し、二本鎖のDNAが形成されます。
つまり、95℃、65℃~55℃、72℃という1回のサイクルで1個のDNAが2個になるわけです。このサイクルを繰り返していくのがPCRです。