旧世界から持ち込まれた病気に対して免疫力のなかった新世界の先住民はあっという間に感染し、人口は急速に減少します。1519年のニューメキシコの人口は1500万人弱でしたが、1世紀後にはほぼ150万人へと激減したとされます。少なく見積もっても、新世界の先住民の数十パーセントが死に絶えたのです。

 もちろん新世界から全世界に“輸出”された病気もあります。もっとも重要なものは梅毒でした。西インド諸島の風土病でしたが、これが世界中に広がりました。これは、グローバリゼーションにより、風土病が世界的な流行病になった最初の事例になりました。

小氷期を乗り越え世界を支配しはじめたヨーロッパ

 一方、新世界における白人の人口は急増しました。新世界に進出した白人が労働力として使った黒人奴隷は、奴隷輸送船の衛生状態が悪かったこと、さらに新世界での労働状況が過酷だったために、長生きできずに若くして亡くなってしまうことが極めて多かったのです。すると労働力を補充するためにさらに西アフリカから新世界へと奴隷が送られる、という悪循環が続いていました。それでも、新世界で大規模栽培された農作物はヨーロッパへも輸出され、ヨーロッパ人の生活水準を上昇させました。彼らは新世界から導入した作物も育て、小氷期という寒冷期に、順応していきます。

 一方、そのあおりを食う形となった先住民の生活水準はヨーロッパ人ほどには上昇せず、黒人のそれについてはむしろ以前に比べはるかに苛酷なものとなりました。

 これが、コロンブスの不平等交換の実態と言えるでしょう。

 小氷期はヨーロッパ世界に大きな苦境を与えました。

 しかしそのためにヨーロッパは海外に出ることを余儀なくされました。そして、それが長期的に見れば、彼らを世界の支配者にすることになったのです。もともと温暖なアジアに比べて貧しかったヨーロッパがその後に繁栄を手に入れるのは、小氷期の苦難を乗り越えられたからと言っても良いでしょう。言い換えるならば、気候変動が世界史を動かした事例と言えます。ただしその繁栄の裏には、新世界の先住民やアフリカから新世界に送り込まれた黒人奴隷の犠牲がありました。そのことを忘れてはならないでしょう。