そういった要因によって地球の平均気温が低下しましたが、そこで上述のシュペーラー極小期に注目してみてください。大航海時代の先駆けとなったポルトガルのエンリケ航海王子の命によって、ポルトガルがアフリカ北岸、ムスリム勢力の拠点だったセウタを攻略したのが1415年、さらにアフリカ大陸最西端のヴェルデ岬に到達したのが1445年です。

 またエンリケの死後になりますが、ポルトガルの航海者バルトロメウ・ディアスが喜望峰を発見したのが1488年。コロンブスがサンサルバドル島に到達したのが1492年。ヴァスコ・ダ・ガマがインドのカリカットに到着したのが1498年です。

 まさに大航海時代は、シュペーラー極小期の最中にやってきたのです。これは単なる偶然の一致なのでしょうか。

小氷期で農業生産が悪化

 地球全体の平均気温が下がる中で、高緯度に位置するヨーロッパは特に深刻な影響を受けました。寒冷化により農業生産が急速に悪化したからです。中世温暖期に人口は増加していましたが、小氷期の到来により、ヨーロッパの人々は慢性的な食料不足に直面することになったのです。

 こうみてくれば、ヨーロッパ諸国には金や香辛料の獲得以外にも、アフリカやアジア、さらには新大陸にまで進出しなければならなかった必要性があったとみるべきではないでしょうか。貿易を活発にして経済力を高めること、食料確保のために新たな領土を獲得したり寒冷な気候でも育成可能な農作物を入手したりすること、そして国内の過剰な人口を適正な水準にすべく植民地を獲得すること。そうした目的が、小氷期の到来によって生じてきたと考えられるのではないでしょうか。