開拓使の事業は赤字でしたので、譲渡価格は極めて安価でした。それでも役人たちにはなかなか出せる額ではなかったので、代わって引き受けたのが五代友厚の関西貿易商会でした。このことが「黒田が同じ薩摩藩出身の五代を優遇した」との批判を浴び、ついには黒田や、本件に批判的だった大隈重信までもが失脚する「明治14年の政変」に発展してしまいます。

 こうしたことにならないように、有望・有能な人物やベンチャーを優遇するときには、ガバナンス上の注意が必要なのです。

明治政府には批判を恐れず「えこひいき」する覚悟があった

 ただ、この開拓使官有物払下げ事件を別の角度から見れば、明治政府は「これは」と思った人物には思い切って支援し、経済を活性化させようという強い意志を持っていたことが分かります。そのような「時代の勢い」というのは、一国の経済が成長していくうえで実は非常に大切なのです。

 公正・公平・平等も大事ですが、世界に名をはせるメガベンチャーを生み出すためには、「これは」と思う人物や企業に、思い切ってえこひいきして、手厚くサポートすることも必要です。行政が従来の発想の枠を破れなければ、またそこそこのベンチャーがいくつか生まれて終わり、ということになりかねません。これからの日本を背負っていけるような世界で伍せるメガベンチャーを出現させるためには、経産省の胆力も見せる必要があると思うのです。