それは、強い意志で組織を率いていける「人材」です。乱暴なたとえですが、平均レベルのプロ野球の選手たちに、いくら栄養ドリンクを提供しても、あるいはいくら練習環境を整備しても、そのチームが急に強くなることはありません。チームが圧倒的に強くなるためには、強い意思と卓抜した能力を持つ大谷翔平選手のようなプレーヤーが不可欠なのです。日本のこれまでのベンチャー育成にはその観点が抜け落ちていました。
経産省も「闘う姿勢」を示せ
では、どうしたら突破力のある、優れたプレーヤーを輩出することができるのでしょうか。私は一つのカギは、経産省が従来の発想を全部捨て去るくらいの覚悟で、本気のファイティングポーズを見せることにあると思います。
要するに、「世界に冠たるメガベンチャーを日本発で育てるんだ」という覚悟の下に、「このベンチャーは」「この経営者は」と思ったところには、経産省が「えこひいき」するような形で、積極的にカネや情報をつぎ込んでいくのです。
この時のおカネの投入の仕方で大事なのは、ベンチャーの成長過程の中で「レイターステージ」になっても手厚くつけてあげることです。一般的に、日本のベンチャー支援策は「ゼロ・トゥ・ワン」、つまり「これからベンチャーつくりますよ」というタイミングで支援することが主流になっています。
支援する側の目線から見れば比較的小さな資金をたくさんの企業に配分していますので、もらった方はとりあえず起業することはできます。ところが、事業が拡大しはじめながらも、まだ収益力が十分ついていない段階で、資金ショートしてしまうベンチャーが多いのです。これは非常にもったいないことです。そのようにならないためには、「ゼロ・トゥ・ワン」より「ワン・トゥ・テン」くらいの段階でしっかり支えてあげる必要があるのです。
現時点でも経産省は「J-Startup」というベンチャー育成制度を手掛けています。これは従来施策に比べればかなり「えこひいき」感が強く、画期的な施策ですが、まだ迫力不足の感をぬぐえません。行政の仕事は「公平・公正」が必要ではありますが、「メガベンチャーを作る」ということを目的とするのであれば、批判を恐れず、極端にえこひいきする以外にないと思います。将来性のある企業や経営者に、手厚いサポートを提供することを考えるべき時に来ているのではないでしょうか。