官庁の「実績重視」「規模重視」がベンチャーを殺す
三つ目の問題として、ベンチャーが活躍しやすいICT・データテクノロジー関係の分野で顕著なのですが、せっかくいい技術を持っているベンチャーがあったとしても、顧客となる政府や大企業が、ベンチャーではなく、大手のITベンダーを使う傾向が非常に強いという事情があります。平井卓也デジタル改革担当大臣が内閣官房IT総合戦略室における会議の際に、NECを名指しして「死んでも発注しない」と発言したことが問題とされました。発言自体はこの部分だけを見れば批判を浴びても致し方ない部分もありますが、一方で平井大臣が言うように、政府や大企業が大手ベンダーばかり使うようになってしまうと、なかなかベンチャーが伸びていかないという現実もあるのです。
では、なぜ日本のベンチャーには、ヒトもカネも集まらず、大企業との間で知的財産の不平等の問題が起きやすいのか。そして、なぜ政府や大企業はベンチャーではなく大手ITベンダーばかりに発注するのか。その原因は、人々は保守的になりすぎていることにあると言えます。その責任は、端的に言えば、親や銀行・大企業、そして政府にあります。
もう少し丁寧に説明しましょう。
親は就職を控えた子供に対して「海のものとも山のものとも分からないベンチャー企業ではなく、大企業に入りなさい」と言いがちです。日本では子供に対して、給料や身分が安定的な仕事に就くことを望む親が非常に多く見られます。同じ流れで最近は優秀な子供には「医学部に行った方がいい」などと勧める親が多いようです。そういう家庭環境で育った若者は、ベンチャーに入ったり自ら会社を興したりという発想をなかなか持てません。
こうした保守的発想は大企業や銀行にも浸透していて、ベンチャー企業に対してあまりおカネを投資しなかったり、逆に前述のように知的財産を取り上げてその将来性を摘み取ってしまったりしています。政府も入札の公正性を過度に考えてしまっていて「実績重視」の発想に凝り固まっており、実績が少ないベンチャーにはなかなか仕事を発注しない構造になっています。こうしたことが幾重にも重なり、ベンチャー成長の障害になっているのです。
この保守的な空気を打破するにはどうしたらいいのでしょうか。「ベンチャーを日本全体で支援しよう」などといったスローガンを叫んでも状況は変わらないでしょう。しかし、ベンチャー企業がどんどん登場し、その中から有望企業が成長していけるか否かは、日本経済の浮沈にダイレクトに関わってくる喫緊の問題です。悠長に構えている余裕は日本にはありません。