カネの方でも、さすがに最近はカネ余りなので、ベンチャーキャピタルや投資ファンドなどからおカネが流れ始めていましたが、それでも米国などに比べるとケタが一つ違います。
私の大学時代の同級生でAIの研究者の東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊さんは、自身の研究室からいくつものベンチャーを育てていることで有名です。松尾研といえばベンチャー育成ということで通っています。その中には、自然言語処理の技術を使った自動翻訳などを扱う会社もあります。ところがGAFAの一角であるGoogleもBERTという自然言語処理モデルの開発を進めています。その技術への投資額を見ると、日本の大学発のベンチャーが太刀打ちできるような額ではありません。
こうした現実を見ると、ヒトやカネの面で、日本のベンチャーが世界の最前線に躍り出るのは厳しいと認めざるを得ません。
大企業が摘み取るベンチャーの芽
日本でベンチャーが育ちにくい二つ目の理由は、せっかく順調に育ってきたベンチャーが、次なるステップを踏もうとして大企業と提携したり合弁企業を作ったりしてプロジェクトを始めようとした途端、新しいアイデアや発想という知的財産を大企業の側が独占してしまうという問題があります。
そもそもヒトの面でもカネの面でもベンチャーは大企業に勝てません。例えば、ユニークな家電をつくろうというベンチャーが事業を拡大するために大企業と提携したりすると、一時的には上手くいっても、徐々に資金的な力の差もあり優秀な研究者を抱えている大企業にベンチャーのアイデアが吸収され、結局ベンチャーは「利用されて終わり」になることが少なくないのです。
こういうケースを問題視する経産省も、競争を阻害する形で大企業が知的財産を独占してはいけないと明記したAIやデータ利用に関するガイドラインを出したりはしていますが、まだまだ浸透しているとは言えません。小が大に勝つためには知恵が必要ですが、その知恵が十分に保護されない状況にあることが、日本でベンチャーが育ちにくい背景の一つになっているのです。