覚悟なき官僚がどれだけ旗を振っても民間企業は踊らない
もっと極端な事を言えば、経産省が本気で「メガベンチャーを作る」ということに取り組むのであれば、経産省が省内の有能な若手におカネを持たせて既存のベンチャーに送り込んだり、あるいは起業させたりするくらいの迫力が必要だと思います。もちろんこれは「出向」ではなく「片道切符」という送り出し方です。
ただでさえ経産官僚による補助金の不正受給が問題になっている中、こんなことを書くと怪訝に思う読者もいるかもしれません。しかし、「国をよくしよう」「日本のために働きたい」という志を抱いて霞が関で働く道を選んだ人間が、「日本の将来のためにはメガベンチャーが必要だ」と考えるのであれば、それくらいの覚悟が必要だと思うのです。
なぜ「覚悟」といった精神論めいたことを言うのかというと、私自身の経験があるからです。
かつて経産省の官僚だった私は、役所を辞める直前は日本のインフラ輸出を支援する部署で働いていました。そのときに商社やインフラ企業の方々にしばしば言っていたのは、「日本企業はリスクを取ろうとしない。もっと積極的にリスクを取って攻めてください」ということでした。
当時、インフラ輸出に関しては、リスクテイクという意味では、日本よりも韓国のほうが積極的な面がありました。実は途上国向けなどのインフラ輸出においては、民間も政府系も金融力のある日本企業のほうが圧倒的に有利なのですが、韓国勢は資金力に劣る自国の政府系金融機関や銀行から十分なバックアップがない中でも、そのハンデをものともせず頑張っていました。そういう状況でしたので、課長補佐だった私は「もっと日本企業もリスクを取って」と、民間企業の方に偉そうに発破をかけていたのです。
当然ですが、商社やインフラ関連企業の方が私に向ける視線は冷ややかなものでした。口にこそ出されませんが、きっと「あんたが言っていることは正論かもしれないが、俺たちは民間企業だし、会社で議論し、リスクを勘案して事業をしている。官僚のあんたはリスクも取らずに、ふんぞり返って俺たちの尻を叩いているだけだろう」ということを思っていたのだと思います。結局、役人が安全なところにいておカネをつけるだけ、というのは相手の心に響かない。そのことを当時、痛感していました。