旅立つ「おひとりさま」と、見送る人へ

 5回にわたって頼る人がいない「おひとりさま患者」に死が迫った時にどうすればいいのか、その人に伴走し、傷ついてしまった家族や関係者がその後を生きていくために何ができるのかを専門家たちに聞いてきた。

 死が近づくと人はどんな状態になるのか、その時に医療者とどう関わるかを緩和ケア医の新城拓也氏にうかがった。生死のラインに立ち会うことは死にゆく人、そばにいる人たち、医療者それぞれに大きな苦痛をもたらすが、お互いに「気にかけていますよ」という関係性を築くことで、それぞれの罪悪感や後悔を分かち合っていくことができるかもしれない。「『この人が死ぬのはあなたの全責任ではなくて、医師である私も一端を負いますよ』と伝えたい」と新城氏は語ってくれた。

 残されゆく人たちがどう生きていくかについては、心理士のつばめきさんにうかがった。ミエコさんを見送った親戚たちが抱える後悔や怒りは、何かを喪失した体験に伴うグリーフ(悲嘆)という反応だ。グリーフには悲しみだけでなく、怒りや無感情な状態もある。つばめきさんは、そういった感情を抱くことは正常なこと、何年も続くことが普通であると教えてくれた。普段の生活で身近な人と過ごしながら「私は安心・安全に生活が送ることができる」と感じられれば、グリーフは次第に落ち着いていく。しかし、そういった場や相手がいない時、グリーフの反応に自分が苦しくなった時には心理士などによる「グリーフケア」を頼ることもできる。また、旅立たなければならない人も、残してゆく人の力になってくれるグリーフケアが存在することを知っておいてもらいたい。

 5年間、がんに罹患したことを誰にも話さず、ひとりで闘病してきた独身のミエコさんは要介護の母と共に暮らし、家族はいても頼る人がいない「おひとりさま患者」だった。少子高齢化が進み多死社会となった現在、「おひとりさま患者」は増えていくだろう。がんを患う「おひとりさま患者」になってしまったら、どうやって誰を頼ればいいのか。「卵巣がん体験者の会スマイリー」代表の片木美穂さんは、再発した時、あるいは新たに別のがんになった時が誰かにSOSを出すタイミングだと言う。まだ元気なうちに、いざという時についての相談をしたり、手伝いを頼んでおける「キーマン」を作っておくことを提案してくれた。そのためには自らの死が近いことを受け入れなければならないが、告白するチャンスを逃したまま苦戦になれば、相手の負荷も増していく。頼る相手は身近な親族や友人だけでなく、知人や同僚、患者会、法律の専門家などもアリだ。旅立ちの時に、肩の荷は少しでも軽くしておきたい。

 自分のことはひとりで選択して解決し、母にも他人にも迷惑をかけないように生きようとしたミエコさん。しかし、人は誰でも病を得た時に「この苦しさを他の誰にもわかってもらえない」という孤独との闘いが始まる。「おひとりさま患者」の研究をする看護師の浅井美穂さんは、たとえ生死にかかわらない病気であったとしても、病気そのものプラス孤独と闘う患者にはケアが必要だと言う。何をもって「ケア」とするのか、定義づけることは難しいが、そばにいて手を握ってくれるような「存在があること」だとすれば、「おひとりさま患者」は、ケアをする機会もケアされる機会も圧倒的に少ない。しかし、たとえ治らない病でも、死が近くに迫っていても、ケアがあれば「自分らしく生きて死にゆく」助けになるかもしれない。

「おひとりさま」であっても、人生の中で何かしら関わる人がいるだろう。断ち切りたくても、関わってしまう人もあるだろう。その人たちの「する、される」ことを、「いる・ある」ととらえることが死にゆく時、死にゆく人を送る時に大切なのかもしれない。

 最後に、がんを得た「おひとりさま患者」が共助・公助を受けるのに役立つであろうリンクを紹介したい。

「がん情報サービス」<がん相談支援センターを探す>
https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm
全国のがん診療連携拠点病院などに設置されているがんに関する相談。その病院に通院していなくても、誰でも無料で利用できる。

国立がん研究センター がん情報サービス<がん情報サービスサポートセンターのご案内>
https://ganjoho.jp/public/consultation/support_center/guide.html
国立がん研究センターがん情報サービスが運営する電話相談。がん相談の研修を受けた医療・福祉・心理の資格のある者が対応している。通話料金はかかるが無料。スマートフォンやパソコンによるチャット相談もある(登録不要)。

国立がん研究センターがん情報サービスのリーフレット「もしも、がんと言われたら」
https://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000purk-att/206.pdf

国立がん研究センター がん情報サービス<『がんになったら手にとるガイド』>
https://ganjoho.jp/public/qa_links/hikkei/hikkei02.html
書籍、電子書籍、PDFで入手できる。

国立がん研究センター がん情報サービス<専門家による心のケア>
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc05.html
精神腫瘍科、緩和ケアなどがんになった時に受けられる心のケアについて解説したページ。

マギーズ東京
https://maggiestokyo.org/
がんを経験している人、家族、友人など、がんに影響を受ける人が相談できる。現在は来訪前に連絡が必要。無料。電話やメール、オンラインでの相談も可能。

がん相談ホットライン
https://www.jcancer.jp/consultion_and_support/%E3%81%8C%E3%82%93%E7%9B%B8%E8%AB%87%E3%83%9B%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3
(公財)日本対がん協会が運営する電話相談窓口。看護師、社会福祉士など国家資格をもつ相談員が対応する。無料。

がん相談ホットラインリーフレット
https://www.jcancer.jp/wp-content/themes/jcancer-renew/img/hot-line/hotline-leaflet-2019.pdf

がん制度ドック http://www.ganseido.com/
がんと診断された人のための公的・民間医療保険制度の検索ウェブサービス。現在の病状、体調、希望に合わせた制度を探すことができる。無料。