誰かと死別するなど大きな喪失を経験すると、人は少なからず衝撃を受けるものだ。同居する高齢の母以外には自身のがん罹患を知らせなかったミエコさんは、それを知った人たちに衝撃を与えまいと気遣ったのかもしれない。しかし、実際には見送ることになった親戚たちは悲しみや後悔、怒りを今も抱いている。このような反応を「グリーフ」という。

 グリーフは死別だけでなく、離婚や引越しなど慣れ親しんだ状態を失ったり、転職や昇進、進学など日常生活が変化する時など、さまざまな状況で経験する喪失に現れる。その状態は時に苦しく、一人で抱えきれないこともあるだろう。そんな時に知っておきたいのが「グリーフケア」だ。死にゆく人に向き合う人たちへのサポートのひとつとして、臨床心理士・公認心理師の「つばめきさん」に聞いた。(聞き手・構成:坂元希美)

(第1回)母親を介護中の50代独身女性が末期がんに、頼られた親戚の苦悩  https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65360

グリーフの反応は悲しみばかりではない

――ミエコさんの最期を世話してきた人たちは、2年が過ぎた今でも大きなショックを受けていますが、悲しいというより怒っておられるようです。

つばめき 大切な人や物事をなくした喪失体験にともなう反応はグリーフと言われます。「悲嘆」と訳されることが多く、毎日泣いてばかりいるような悲しみというイメージが強いですが、怒りもグリーフの反応のひとつです。他にも何も感じなくなる、そのことを避ける、仕事や家事に没頭したり、お酒やタバコが増える、食べない、眠れないという反応もあります。

 ミエコさんを見送ることになった親族の方々が病院に対して怒っているのも、自然な反応だと思います。「病院の対応は適切だった」と伝えたととしても、「ミエコさんは亡くなる運命だった」という現実を認めたくないという思いが出てくるのではないでしょうか。グリーフケアは、これらの怒りも支えます。

 今回のように、皆さんが共通して怒りを抱えておられることもありますが、そうでないこともあります。たとえば家族内でお母さんが亡くなった場合に、お父さんは仕事に明け暮れ、息子は無関心、娘はひたすら泣いているというようにバラバラな反応を持たれることがあります。実はそれぞれ違うグリーフを表出しているのですが、お父さんは家庭を顧みない、息子さんは冷たい、娘さんはいつまでも泣いていて・・・というように、それぞれが非難し合って不和が起きる家庭もあります。