少子高齢化が進む現在、家族やパートナーといった身内を持たず、ひとりで死出の途に着く人は増えていく。同時に、家族でもなく、人生のごく一部しか接していない誰かの死出の準備に立ち会う機会もあり得る。遠い親戚や友人知人、同僚など生活を共にしていなかった人の終末期に立ち会うことになったら、どんなことに直面するのか。どんなショックを受けるのか。

 前回登場した、急に余命3カ月と告げられた従妹の世話をすることになったカズコさんとサチコさん。末期がんの従妹ミチコさんのせん妄による言動に心を痛め、彼女の死後もその間の病院の対応や自分たちがしたケアに関して疑念や後悔が心に残っている。一般的にせん妄とは一種の意識精神障害で、異常な精神状態を指し、死が間近に迫る終末期には多くの人がせん妄の状態になるという。そこで、終末期せん妄はどういうものか、誰かの死出の旅立ちに立ち会うことになった人たちは、どう接すればいいのかを、緩和ケア医の新城拓也氏に聞いた。(聞き手・構成:坂元希美)

(前回)母親を介護中の50代独身女性が末期がんに、頼られた親戚の苦悩
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65360

「終末期せん妄」とは

――がんに限らず、死が近づく終末期にはせん妄状態になると聞きますが、それがどういうものなのかをあらかじめ知っている人はあまりいませんし、そばにいる人たちがその場になって動揺したという話を聞きます。

新城拓也氏(以下、新城) 終末期のせん妄は、亡くなる前の自然な過程の一部ですから、「せん妄の期間を経ないと亡くならない」と言ってもいいでしょう。せん妄にはさまざまな状態があります。ずっと眠っている、呼んでも起きないというのもせん妄のカテゴリーに入りますし、暴れまわったり錯乱状態になること、つじつまの合わない話をされることもせん妄に入ります。穏やかな状態であれば付き添っている人も医療者も困ることは少ないのですが、問題になるのは動的なものです。

 人はふっと消えていなくなるのではなく、長ければ数週間、短ければ数時間、興奮したり鎮まったりというせん妄の期間を過ごして死出の途に着くものです。科学的に説明されていなかった昔は、それがお迎え現象とか、悪いものに取り憑かれたなど表現されていたと思います。終末期せん妄はその人の内側で起きることで、付き添い方が悪いとか、「病院だから」とか「在宅だから」などという外的要因で起きるものではないと考えてもらいたいです。