埼玉県議会では、全国で初めて「ケアラー支援条例」を制定した。「ケアラー」とは、無償で介護や看護などをする人のこと。介護や看護を家庭内の問題にせず、個人の問題として認識し、社会がしっかりと支援するための条例である。条例の提案者代表を務めた埼玉県議会議員の吉良英敏氏が、「ケアラー支援」の必要性を訴える。(JBpress)

※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「介護・看護する人を社会全体で支えたいー全国初!「ケアラー支援条例」制定で、社会はどう変わるのか 前編、後編」を再構成したものです

(吉良英敏:埼玉県議会議員)

「これは社会からの虐待ではないか」と思う、悲しい事件がありました。2019年10月、神戸市で介護に疲れた22歳の幼稚園教諭が、5月から同居し、付きっきりで介護していた祖母を殺害したのです。殺人罪に問われた元幼稚園教諭は、2020年9月、神戸地裁から懲役3年、執行猶予5年を言い渡されました。

 しかし、裁判で明らかになったのは、22歳の孫娘が置かれた過酷で孤独な介護の現状でした。たった5カ月という短い期間に、彼女はこんなにも追い込まれてしまった。社会は、私たち一人ひとりは、彼女に対して何かできなかったのでしょうか。

 私が所属している埼玉県議会では、2020年3月、全国で初めて「ケアラー支援条例」を制定しました。この条例では、すべてのケアラー(介護者など)が個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができる社会の実現を目指しています。

 22歳の彼女が、社会からしっかりとしたサポートを受けられていれば、もしかしたら悲しい事件を防げたのかもしれない。「社会からの虐待」をもう二度と起こさず、介護・看護する人を社会全体で支えるための条例なのです。

「ケアラー」とは「介護する人」

「ケアラー」という言葉が聞き慣れないという方もおられると思います。「ケアラー」とは、無償で介護や看護などをする人のことです(下図)。

 さらに「ヤングケアラー」とは、ケアラーのうち18歳未満の子どものことを指します。具体例を挙げれば、埼玉県所沢市が舞台のアニメ映画「となりのトトロ」。この主人公のサツキちゃん、彼女はヤングケアラーです。入院している母親に代わって、幼い妹の世話をしている小学生。直接、家族の介護や看護をしていなくても、障害や病気の家族に代わって家事や育児をしている子どももヤングケアラーです。