実は、私がこの活動に熱心に取り組んできたのは、あるケアラーさんからの声がきっかけでした。2年前、同世代のお父さん、お母さんから困っていることや要望などを伺う「子育てパパママ集会」を開いたときのこと。重度の障害を持つ子どものお母さんが、「助けてください。うちの子どもには、たくさんの支援を頂いています。だけど、正直こんなことを言ったら母親失格ですが、私がつらいです」と話されました。その方は泣かなかったのですが、それを聞いた周りのお母さんたちが、そのお母さんの苦労を想像するのでしょうね。涙、涙の集会になりました。

 そのとき、「自分はお坊さん(正福院副住職)なのだから、この人たちを支えなくてどうするんだ」という強い思いを持ちました。これは大きなきっかけとなりました。

高校生の25人に1人がヤングケアラー

 では、実際にケアラーは何人いるのか。実は分かりません。正確に把握できていないのです。しかし、具体的な施策を行うためには、予算規模を決めなければならず、まずは実態把握が必要です。2020年7月から10月にかけて、全国初の行政による本格的な実態調査を実施しました。

 まず、ケアラー調査は、県内の地域包括支援センターと障害者相談支援事業所でアンケートを実施し、約1500人から回答がありました。性別は女性が7〜8割を占めていること、1日8時間以上ケアしている人が2〜3割いること、代わりにケアを担ってくれる人が「いない」人は約3割もいることなどが分かりました。

 続いて、県内すべての高校2年生にヤングケアラーの調査をアンケート方式で実施しました。193校・約5万5000人を対象とし、約90%から回答がありました。そこで分かったのは、「ヤングケアラー」に当たる割合は4.1%で、25人に1人にも上ることです。

 ケアによる生活への影響(複数回答可)に関しては、「孤独を感じる」が19%、「ストレスを感じる」が17%、「勉強時間が十分に取れない」が10%など、自らの体調や学習に影響が出ている実態がうかがえます。核家族化が進む中で、介護や看護に関するしわ寄せが、子どもたちに行っているのです。

 この調査により、どこにどれくらいの支援が必要か、専門職がどれくらい必要かといった規模感を、ある程度つかむことができました。この結果を踏まえて、しっかりと予算化し、効率的な施策につなげていきたいです。

ケア全体を見るのではなく「ケアラー目線」で

 今回制定した条例は、ケアラーという「概念」の話をしているところが実は大きなポイントです。これまで障害や病気をもつ当事者(被介護者)への支援がメインでしたが、介護する人たちを支援するという、新しい視点・概念が必要になってきています。

 先日の社会福祉審議会で、「ケア全体を見ながら、介護者と被介護者それぞれを両輪として支援していきます」という発言があったのですが、それは条例の理解の仕方として間違いです。ケア全体を見る、両輪として支援していくのは、もちろん良いことです。しかし、あくまでも「ケアラー支援条例」なので、“ケアラー目線”でなければなりません。ケア全体を見るとなると、どうしても本質を見失ってしまいます。