今回の「ケアラー支援条例」に関しては、2019年6月から、県議会の自民党会派がプロジェクトチームを立ち上げて条例案を検討。国内に事例がないため、先進的な取り組みを行っているオーストラリアへ視察にも行きました。本件には県民からの強い要望や関連団体の方々からのサポートもあり、切実なパブリックコメントも多数頂戴しました。さらに議会事務局に法制や法務に強い職員が多数いて、議員提案条例を作りやすい環境もありました。
県民・議会・事務局、3者のモチベーションの高さが、全国初の条例を制定させる大きな原動力となり、条例は“全会一致”で成立。今回この条例の提案者代表に抜擢いただき、県民・議会・県庁職員の皆さまのおかげで条例を成立させることができ、心から感謝しています。
埼玉県でこれが叶ったのですから、ぜひ他の自治体でも、さらに国でも、取り組みを進めてほしいと思っています。条例を作るまでのマニュアルを作成して、他の自治体に“輸出”することも提案しています。県内の市町村に対しては、予算も付けられるよう意見しており、それぞれの内情に応じた条例を作成してほしいです。これからは県内外問わず情報発信に力を入れ、ケアラーが安心して介護・看護ができるよう、一人でも多くの人にこの問題を知ってもらいたいと考えています。
縦割り是正や人材育成に効果も
今回、ケアラー支援条例の制定に当たり、私自身も学ぶところが多々ありました。先ほど、地方議会の約8割は議員提案条例を制定していないと述べましたが、それは非常にもったいないと思います。新しい条例を作ること、新しい支援体制を整えることは、実は付加的な効果を生み出し得ることが分かったからです。
まず、縦割りの是正。子どもの問題で言えば、教育と福祉に分断されてしまうので、この是正に取り組む必要が出てきます。また、1人のケアラーを支援するには、県と市町村、あるいは自治体同士の連携や情報共有が必要な場合もあります。ケアラー支援に取り組むことは、縦割り是正にもつながるのです。
次に、人材育成。新しいケアラー支援という概念の下、新しい施策を実行することは、職員にとって学びと育成の機会になります。例えば、ケアラーに関する知識と経験を豊富に得た地域包括ケア課の職員が選挙管理委員会へ異動したら、選挙時にも「ケアラー」という新しい概念が持ち込まれ、新たなサービスが生まれるでしょう。新規施策や人事異動によって、行政サービスの質がますます向上していくのです。
現在のコロナ禍においても、ケアラー支援条例は効果を発揮しています。今年(令和2年)度、ケアラーのためのコロナ緊急対応策として約4億円の予算を付けることができました。具体的には、介護者が感染した場合、被介護者が入居できる施設を県内7カ所に確保するとともに、その時のための「引き継ぎシート」を作成しました。シートには、ケアラーの方に、被介護者の最低限の情報をまとめてもらいました。これはコロナ禍のみならず、災害時などにも役立つものです。今回の施策は、ケアラーの不安要素を一つ減らし、安心につながったと考えています。
長引くコロナ禍で、ケアラーの孤立も心配です。これからもさまざまな方法でケアラー支援に取り組み、埼玉県が引っ張っていく存在でありたいと考えています。もう「社会からの虐待」を起こさないために──。