夜が明けて目に飛び込んできた惨状
早朝から人が集まって来た。
一人の中年男性が何度も首をかしげては、焼け落ちたトタンを捲っていた。そしてじっと見つめている。
「家は確かここだと思うよ・・・」
と、ひとり言のように呟いて、男性は去って行った。
真冬の朝の光の中に浮かび上がった街はすべてがセピア色に見えた。
きのうの一撃でこの街からは生活の色も臭いも消えた。ケミカルシューズを縫い込んでゆくカタカタというミシンの音も、商店街の威勢のいいかけ声も、夕暮れの路地に漂う焼鳥屋の煙も。
その中をひとりで、あるいは二人連れ立って、何かを探すように歩く人たち。
行き交う人にかける言葉も見つからず、ただ立ち尽くしていた。そんな他所者に声をかけてくれたのは、ひとりのおばちゃんだった。
線路近くの燻り続ける3階建てのわが家の前で、おばちゃんも呆然と立ちつくしていた。
「何もかも燃えてしまいよった。お父ちゃんと食べるものも食べんと建てたお城なんや・・・」
そう言っておばちゃんは両手で溜息を包み込んだ。
「しゃーないやないか! 燃えてしもたんは。命あるだけましやんか! おおきに言わんと」
隣に立っていたお父ちゃんが大きな声を出した。そして、そっとお母ちゃんの肩に手を回した。