ヘリの搭乗員の話では、山古志村方面がとんでもないことになっているようだ。急な山の斜面が崩れ、家が谷底に転がり落ちているという。
「大きく書いた“SOS”の文字がはっきり見えた」
と、隊員は語った。
全村避難となった山古志村
山古志村東竹沢地区に向かった。途中の道路には何カ所か亀裂が見られ。土砂崩れも起きていた。家の下の土が崩れて空中に突き出たような状態で、かろうじて残っている民家があった。
山道に入ると地震の爪痕がいっそうはっきりと見えた。ところどころ山の中腹が削り取られ、赤土が剥き出しになっている。山の木々がなぎ倒されている。道に沿って流れる川は土砂が流れ込み、泥流となっていた。上空を自衛隊のヘリが爆音をたてながら、山の尾根へと消えて行った。
しばらく行くと数人の村人が川へ降りているのに出合った。
「何をしているのですか?」
「見てみろや。こいつらはもうダメだ。養殖池が決壊して流されて来たんだ。傷だらけだよ」
よく見ると丸々と太ったプラチナ色の見事な鯉が口をパクパクさせていた。紅白や黄金色の鯉も浅瀬に背びれを出して体を揺らしている。美しい。この辺りは錦鯉の一大生産地だ。品評会で総理大臣賞をとるような見事な鯉を丹精込めて育てていた。
「ダメだな。こいつらはただの野良鯉になってしまったな」
その先には大きな石がゴロゴロと道に転がっていた。石を避けながら、さらに進むとやっと集落が見えてきた。だが家の見える角度が違う。家が土台ごと大きく傾いている。その遥か下に白い車が転げ落ちている。
その先はどこが道なのかもわからない状態だった。民家の土台の石垣は大きく崩れ、山から滑り落ちてきた土砂に押されて家が傾いていた。
これだけの破壊が一瞬にして起きた。地震はとてつもない暴力だ。
大きく倒壊した家の前に女性がひとり座り込んでいた。
「いきなりグラグラと揺れて家具が倒れて・・・囲炉裏に吊るした鍋もブランコのようだった。すぐに家が傾いたから慌てて外に飛び出したのだけど、裏の山からあっという間に土が流れてきた。危なかった」
「私は一人暮らしだから・・・怖かった」
その翌日、山古志村の住人2100人は全村避難となった。
美しい山あいの村の暮らしが地震という暴力によって突然奪われた。