郵政民営化特別委では、二階の裁きぶりに注目が集まった。あえて野党に譲る場面を増やし、総審議時間は109時間に達した。野党の顔を立てて審議をスムーズに進めるのは自民党のお家芸である。二階は委員会運営を得意としており、2014年の衆院予算委員長時には戦後最速の予算成立を牽引している。

 委員会運営は簡単ではない。質疑の中身をしっかり聞かなければ対応できないからだ。二階は政治家にありがちな「とにかく自分が話したい」ではなく、「人の話をよく聞く」気質を持っている。例えば、2016年の代表質問では野党のヤジに対し「黙って聞け!」と瞬間的に反応し、2017年の代表質問でも「黙って聞けよ!」などとドスを利かせ、質疑を中断してまで野党を批判した。今年1月の代表質問でも「だから野党に呼びかけてるんじゃないですか!」と凄んでいた。二階は原稿を棒読みしない。アドリブも効く。反射神経が良いため、委員会運営も巧い。

そして強運

 話を戻す。郵政民営化をめぐる混乱、対立は衆院での法案可決後も続き、参院での法案否決を受け、小泉は衆院解散に打って出る。2005年9月、小泉自民党は296議席を獲得し、圧勝した。

 小泉は郵政民営化法案に反対した党所属議員を公認せず、刺客候補を擁立した。小泉の劇場型選挙は多くの国民に記憶されている。一方、二階がこの郵政選挙を総務局長として陣頭指揮したことはあまり知られていない。二階は2005年5月から9月までのわずか4カ月間で、国会と選挙で抜群の実績を残していることになる。当時66歳、政治家としてのピークだったことは疑いの余地がない。普通の政治家ならここで一区切りついていただろう。

 もちろん、二階は普通ではなかった。2005年9月から2009年9月までの4年間、すなわち小泉、第1次安倍、福田、麻生の4内閣で経済産業相、国対委員長、総務会長を務め、さらに経済産業相に再任されている。二階はこの時点で相当な大物議員であり、後述するように外交面でも新機軸を打ち出していく。

 念願の幹事長ポストを手中に収めたのは2016年8月。谷垣禎一が自転車事故で大けがを負ったため、転がり込んできたポストだった。伊吹から派閥をあずかり、谷垣の突然の事故でポストが回ってきた。二階の強運ぶりを感じざるを得ない。

 後編では、二階の力の源泉である「外交」に焦点を当てる。