沈む太陽

 遙か彼方に、ぼんやりと連なる山々が見わたせた。尾根の向う側に真っ赤な太陽が沈んでいく。夕日は、疲労で座り込んだ、我々ひとりひとりの顔を赤く染めた。目線の先には茜色の空に黒々とした山のシルエットが浮かんだ。やがて山々の間に太陽は姿を隠し、御巣鷹山の尾根も深い闇に包まれていった。闇は凄惨な墜落現場を包みこんで隠し、何事もなかったかのような山の静寂と冷気を呼び寄せた。

 そのまま現場に残り一夜を過ごすことに決めた隊員たちや仲間の報道陣は、狭い尾根の上で、毛布に包まれた遺体にすり寄るように座り込んでいた。皆、汗と泥にまみれ、汚れ果て、疲労困憊で尾羽打ち枯らし、寡黙になっていた。暗闇に小さな炎がまるで鬼火のようにちらちら燃え上がるのを誰もが見つめていた。高い尾根にはすでに秋が訪れていた。

 今日一日長かった。倦怠感と同時に空腹感を覚えた。リュックの中から弁当を取り出した。近くに座るカメラマンに「もう一つ弁当がありますからどうぞ」と声をかけた。するとカメラマンは「食欲があるんですね・・・」と笑いながら、差し出した弁当を手刀を切って受け取った。

 いざ飯を摘んで食べようとした時、足元近くに、ちぎれた人間の足が落ちていることに気がついた。懐中電灯で照らしてよく見ると、足は踝から膝上にかけて無理矢理引っぱられたように骨が剥き出しになっていた。血の気を失った足首は泥にもまみれずに、ふやけたような妙な生々しさがあった。

 昼間の悪夢のような暑さが嘘のように、山頂へ吹きあげて来る風に思わず体を震わせた。遺体を包むために用意された毛布を借りて、横になった。直ぐ側には、明日ヘリで運ばれる予定の遺体が置かれていた。