現場が次第に近づくにつれ、複数のヘリがエンジン音をうならせながら山頂付近を旋回している。

 もう目指す御巣鷹山は直ぐ眼の前にあるような気がする。だが、これから急峻な山道を谷へ向かってしばらく降りて行かなければならない。何回も足を踏み外し、転びながら下りていった。

 尾根へと続く深く切れ込んだ谷底にたどり着くと、突然、あのジャンボ機の翼の下についた4つの巨大なエンジンのうちの一つが落ちているのが目に入った。こんな谷底に場違いな巨大なジェットエンジンが・・・。何とも不可解で恐ろしい風景だ。

 触って見ると、冷たくささくれた軽合金の触感が、手のひらに伝わった。

(写真:橋本昇)
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突如開けた視界

 さらに我々は、墜落現場へ通じる最後の道なき道を、藪を掻き分けるように登って行った。途中所々に乗客の体の一部が散乱している。

 突然眼の前の視界が開けた。尾根の木々がほとんどなぎ倒されていたからだ。墜落現場はあらゆるルートから、蟻が這い上るよう登って来た自衛隊員、消防隊員やカメラマンたちの姿があった。

(写真:橋本昇)
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 いたるところから油臭い煙、化学製品が燃える煙、そして髪の毛などタンパク質が燻る煙が立ち上っている。さまざまな種類の煙が放つ何とも表現しようもない異臭――。

 それは、まさにそれまでに見た事が無い凄惨な有様だった。言葉を失った。現実とは思えないほどの光景だったが、鼻を突く異臭がすぐ現実に引き戻す。

(写真:橋本昇)
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