音吉研究の決定版が出版
さて、14歳で遭難事故に遭い、その後、14カ月間も漂流したのち数奇な運命をたどった音吉。
彼は、同時期に漂流した「ジョン・万次郎」や「ジョセフ・彦」らのように有名ではなく、歴史の教科書にも一切出てこない無名の漂流民ですが、彼の生涯を調べれば調べるほど、幕末日本の外交にかなり大きな影響を与えた「国際人」ではなかったか、という推論に突き当たります。
おそらく、佐野鼎もこの人物に大きな影響を受けた一人に違いないでしょう。
実は今月、「音吉」研究の決定版ともいえる超大作が出版されました。
その名も、『音吉伝―知られざる幕末の救世主―』(新葉館出版)。
著者は、岐阜県在住の篠田泰之さんです。
篠田さんは、長年勤めた会社を退社された後、三浦綾子氏の著書『海嶺』を読み、音吉研究に没頭されました。そして、東日本大震災による津波で流された第11漁運丸の漂流を目にしたことをきっかけに、約8年の歳月をかけて、606ページにも及ぶ『音吉伝』の執筆に取り組まれたのです。
『音吉伝』の表紙帯には、こう綴られています。
<世界に日本型民主主義を示した初の国際人、ジョン・M・オトソンこと山本音吉は、一漂流民からモリソン号事件を経て、幕末の救世主となった。
世界初の和訳聖書を翻訳し、イギリス海軍の日本語通訳官を務めるなど近代通訳第1号として活躍。また日本人漂流民を“黒船”から救出、遣欧使節派遣中の福沢諭吉との邂逅など、数々の歴史的大事件の舞台に音吉はいた>
同書には、シンガポールでの文久遣欧使節との接点をはじめ、佐野鼎の名前も登場します。
小さな漁村で生まれ育った少年の、実に数奇な49年間の人生。そこから見えてくる、開国に揺れる幕末日本の真の姿・・・。
ぜひお読みいただきたい一冊です。