(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
「幕末、日本を開国したのは誰ですか?」
と聞かれたら、
「もちろん、大老・井伊直弼(いいなおすけ)です」
大半の日本人がそう答えるでしょう。
受験のために学んできた日本史の授業ではそう習いますし、試験では今もこれが正解のはずです。つい数日前までは、私もその名前しか答えが思い浮かびませんでした。
しかし、この本を手にしてからは、その認識が180度変わりました。
まさに、「目からうろこが落ちた」とはこういうことを指すのですね・・・。
日米修好通商条約への調印を断行したのは井伊直弼ではない?
7月15日に発行された新刊、『日本を開国させた男、松平忠固―近代日本の礎を築いた老中』(作品社)――。
著者で拓殖大学教授の関良基氏は、冒頭から一刀両断、
『もし日本史の試験において「松平忠固(ただかた)」と解答すれば不正確とされるだろう。そもそも中学校・高校の日本史の教員であっても、二〇二〇年現在、「松平忠固」などという名前は知らない教員がほとんどであろう』
と記しています。
「まつだいら ただかた」
正直言って初めて聞く名前でした。幕末関係の史料には載っているものの、恥ずかしながら私は一度も記憶に留めたことがありませんでした。
関氏はさらに続けます。
『歴史的事実として、徳川政権の閣内にあって、ペリー来航の当初から交易通商を声高に主張しつづけ、交易の準備を進め、政敵たちと熾烈な闘いを繰り広げ、そして最終的に日米修好通商条約の調印を断行した人物は、井伊直弼ではなく、松平忠固なのである』