大垣城に立つ戸田氏鉄(うじかね)像。撮影/西股 総生

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

知識よりも楽しむこと

 このところ、日本の城の歴史、戦国時代の城、陣屋などの話をしてきました。そこで、城を理解するためには、やはり背後にある歴史のことを知らなくては、と思った方も多いと思います。

 歴史の勉強というと、学校の授業で習ったように、用語や人名、年号などを覚えゆくイメージがありますよね。でも僕は、歴史を知るために本当に必要なのは、知識や用語ではなく、原理を理解して楽しみ方を身につけること、だと思っています。この講座の第2回で、そんなことを書きましたし、以来ずうっと、そのスタンスでお話ししてきました。

写真1:吉田城(愛知県)にて。城へ行くと、こういう説明板を読んで満足してしまう人がいるんだけど、大切なのは後ろにある本物の石垣。彼女は、ちゃんと石垣に注目している。

 なぜなら、原理を理解して楽しみ方を身につければ、知識はあとからついてくるからです。ほら、アイドルグループに興味をもつと、たくさんいるメンバーの顔と名前、キャラとか得意技とか、いくらでも覚えられるでしょう? 

写真2:静岡県・賤機山(しずはたやま)城の坂虎口。マニア的には、美形な坂虎口を集めて「坂虎口46」でもつくってみたい?

 城や歴史も同じ。逆に、最初から知識、知識で詰め込んでしまうと、大切な原理みたいなものが、かえって見えにくくなってしまうことがあります。

 たとえば、江戸時代の大名には、親藩、譜代、外様の種類があった、と教科書では覚えますよね。このうち、老中や若年寄といった幕府の要職につくことがてきるのは、譜代だけ。外様大名は、どんなに家格が高くても、財力があっても、頭がよくても、幕府の政治には関与できません。なんで、そんな意地悪するの? と、思ったことのある人、いませんか?

写真3:佐賀城の鯱(しゃち)の門。佐賀の鍋島(なべしま)家は36万石の大藩で、優秀な殿様も輩出したが、外様なので幕政にはノータッチ。そのかわり国力の充実に力を注いで、明治維新の立役者となった。