(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
城の見方=知識ではない
今回は少し趣向を変えて、城との付き合い方についての話です。城のことを知りたくなって、何か本でも読んでみよう、と思って書店に行くと、城の入門書やビギナー向けの城の解説書なんかが、たくさん並んでいます。
手にとってページをめくってみると、天守や石垣といった項目ごとに解説が書いてあります。用語が次々と出てきて、たいがい用語が太字になっていますね。一見わかりやすそうですが、早い話、これって教科書や参考書のスタイル。つまり、城のことを知りたいのなら、学校の勉強みたいに、用語を順番に覚えていきなさい、というわけです。
でも、それでいいのでしょうか。大人になって、趣味や楽しみで城に興味をもったのに、また学校みたいに勉強するのって…。だいたい、城についての知識を増やすこと、用語を覚えることと、城がわかるようになることとは、別じゃないでしょうか。
それに、世間に出回っている城の入門書・解説書に出てくる用語の中には、「これ、本当に覚える必要があるの?」と思えるものが、実はたくさんあるのです。
なぜ、こんなことになっているのかというと、城の研究が遅れているからです。城そのものの研究が本格的に進められるようになったのは、この30年か40年くらいのこと。意外に最近なんです。それまでは、トラベルライターのような人や、建築史の専門家が城の本を書くことが多かったようです。
建築史の先生は、天守などの建物には詳しいのですが、石垣や縄張りのことは専門外。彼らにとって、石垣は建物の土台でしかありません。そこで、江戸時代に書かれた軍学書というものを元ネタにしました。江戸時代には、武士の嗜み・教養としての「軍学」というジャンルがあって、その中に城のことも書かれていたからです。
でも、よく読んでみると、机上の空論みたいな話がたくさん出てきます。なぜ、軍学が机上の空論になってしまったのかというと、逆説的ないい方になりますが、もともと軍学が、武士たちの戦いのための実学を目指していたからです。