(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
縄張りは城の設計図
この講座で、ここまで採り上げてきた石垣・堀・城門・天守・櫓などは、城を構成するパーツです。それらのパーツには、それぞれに役割がありますが、城が城として機能するためには、全体が組み合わさっていなくてはなりません。
そう、石垣や櫓といったパーツは、サッカーにたとえるなら一人一人の選手です。天守というエースを中心に、チーム全体がまとまって連携しないと、敵に勝てません。
城の場合、敵をうまく防ぐためにパーツをどう組み合わせるか、という工夫のことを「縄張り(なわばり)」といいます。縄張りは、サッカーでいうならフォーメーションのようなものです。城を築くとき地面に縄を張って、ここに堀を掘って、ここに櫓を建てよう、というように設計していったので、縄張りというのです。
縄張りは、敵をどう防ぐかという城全体の設計ですから、とても大切です。城の価値は縄張りの善し悪しで決まる、といってもよいほどです。たとえば、写真2を見て下さい。彦根城の本丸の手前にある天秤櫓と橋を、堀底から見上げたところです。
本丸にたどり着くためには、二の丸から坂道を登って、この堀底を通り抜け、写真2の左手にある鐘の丸という曲輪にいったん入ります。天秤櫓と鐘の丸の両方に城兵がいたら、この堀底を通り抜けるのは絶叫ものですね!
がんばって城門を破り、鐘の丸に入ると、中の城兵は橋を渡って本丸に退却します。「追えーっ!」と思ったら、目の前には天秤櫓が立ちはだかっているではないですか! 後ろからは、味方の兵が次々と詰めかけてきます。彼らだって、堀切の中でグズグズしてはいられないのです。進むことも退くこともできずに、天秤櫓から狙われたら・・・想像するだけで生きた心地がしないでしょう? これが縄張りの恐ろしさです。