(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
実戦で役立つ縄張りの工夫
戦国の築城は大急ぎ。簡単に落とされない城を、ありあわせのマテリアルと技術で造るには、縄張りを工夫するのがいちばんです。実用的な縄張りの工夫は、土の城の大きな魅力といえるでしょう。
ただ、実戦向けの工夫の数々は、戦いのない環境に育った私たちには、なかなかわかりにくいものがあります。そこで今回は、いちばん基本的な縄張りの工夫を、いくつか伝授しておきましょう。ここで説明した工夫は、近世の石垣造りの城にも取り入れられています。戦国の土の城でも、実戦で相当な威力を発揮したのでしょう。ですから、知っていると近世の城を訪ねるときにも役立ちます。
さて、城は、敵を入れないように築くものです。でも、ぐるりを全部、堀や切岸、土塁などで囲んでしまうと、難攻不落にはなりますが、自分たちも出入りできなくなって困ります。どこかに出入り口を開けなくてはなりません。
この出入り口のことを、虎口(こぐち)と呼びます。城の出入り口というと、普通の人は門を思い浮かべます。でも、門は一つの建物です。そうではなく出入り口そのもの、言いかえるなら、出入りのために土塁や切岸、石垣の途切れている場所が、虎口です。
少し理屈っぽかったでしょうか? でも、虎口という言葉を覚えると、城の見方が一気にステップアップします。近世の城を見るときにも使える言葉なので、「ほお、この虎口は渡櫓門(わたりやぐらもん)で守っているのか」などと、つぶやいてみて下さい。
土でできた山城によく見られるのが、坂虎口(さかこぐち)というタイプ。坂道を登って曲輪に入るだけの単純な虎口ですが、坂道そのものが攻め手の勢いを削いでくれます。しかも、登ってくる攻め手には、城内の様子がわかりません。単純だけど、実用的でしょう?
そうです! 虎口は、攻防の要となる場所。攻め手は当然、突破を狙ってきますよね。なので、自分たちは出入りしやすく、敵は入りにくいように、工夫が凝らされるのです。そうした工夫の中で、もっとも高い防禦度をもつのが枡形虎口(ますがたこぐち)です。
枡形虎口とは、土塁や切岸で四角い空間(=枡形)を造り、そこに門を建てるスタイルです。攻め手が虎口に突入してきても、枡形の中で袋のネズミ。門を破ろうとジタバタしている間に、まわりから矢弾の雨を降らせて全滅させるという、恐ろしい仕掛けです。江戸城や大坂城では、頑丈な石垣造りの枡形虎口が標準装備になっています。