空堀の中でお弁当を食べる人々。撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

戦国乱世の城造りは大急ぎ

 戦国時代、日本全国に何万か所も築かれた土の城。それらは、パッと見にはタダの山か雑木林。あまりインスタ映えしそうもありません。では、戦国の土の城は、どこを見れば面白いのでしょう?

 最大のポイントは、「戦国乱世の城造りは大急ぎ」です。明日、攻めてくるかもしれない敵を防ぐために、現地調達できる、ありあわせのマテリアルと技術で、実用的なものを造る。その切羽詰まったような必死さが、土の城の最大の魅力。

 たとえば山城であれば、堀切(ほりきり)が敵を防ぐ基本アイテムになります。堀切とは、山の尾根を断ち切るように掘った空堀。敵は、尾根づたいに登ってくるからです。

写真1:東京都・浄福寺(じょうふくじ)城の堀切。尾根をスパッ断ち切っている様子がわかるだろうか。橋がかかっていないと、越えるのは大変だ。
写真2:山形県の畑谷(はたや)城。堀切だとわかりますか? 堀の向こうに空が見えるのは、堀が尾根を断ち切っているから。

 切岸(きりぎし)も、土の城のもっとも基本的なアイテム。これは、山腹を削り落として造った人工の崖です。曲輪の縁には、土塁(どるい)を築くこともあります。土を盛って造った、戦闘用の土手のことですね。

写真3:千葉県・臼井城の切岸。この高さを人力で削り落としたのである。すでに登るのは大変そうだが、鑓を構えた城兵が上に立っていたら、相当怖いと思う。
写真4:埼玉県・中城(なかじょう)の土塁。左手が城内で、右下には空堀が見えている。曲輪の縁に沿って土塁がめぐっているのがわかるかな?

 堀を渡って曲輪に出入りするのには、木製の橋=木橋も使いますが、土橋(どばし)もよく使います。土橋は、堀の一部を掘り残すだけでできるので、材料費はタダ。むしろ、掘る手間が省けてラッキーなくらい。手間もコストもかけずに実用的なものを造る、という戦国の城づくりにピッタリなアイテムといえます。

写真5:大阪府・芥川山(あくたがわさん)城にある土橋。三好長慶が一時期、居城としていた山城。明智十兵衛も、この土橋を渡ったことがあるかも。

 そうそう、戦国の土の城特有のアイテムとしては、竪堀(たてぼり)というものもあります。これは、斜面を縦に下ってゆく空堀です。堀切・切岸・竪堀などは、言葉で説明しただけでは、ピンとこないかもしれませんね。でも、実物を目にすれば「ははあ、なるほど、これか」と納得できますよ。

 と同時に、「これを突破するのは、なかなか難しいぞ」と感じることでしょう。土の城の空堀や切岸は、たいがいの場合、近世城郭の水堀や石垣ほどのスケール感はありません。でも、その分、城内から城兵が鑓(やり)を突き出したら、刺さりそうで怖いです。

 壮大な高石垣や天守とちがって、土の城の空堀や土塁は、いかにも人が手作業で、せっせと掘ったり積んだりしたイメージがダイレクトにわきます。土木量にせよ、戦いの情景にせよ、「肌感覚で伝わってくる生々しさ」が、土の城の魅力といえます。

写真6:静岡県・諏訪原(すわはら)城の空堀。右手が城内。ぜーんぶ、人の手で掘りました! 土の城、あなどるべからず。