(城郭・戦国史研究家:西股 総生)
戦国乱世の城造りは大急ぎ
戦国時代、日本全国に何万か所も築かれた土の城。それらは、パッと見にはタダの山か雑木林。あまりインスタ映えしそうもありません。では、戦国の土の城は、どこを見れば面白いのでしょう?
最大のポイントは、「戦国乱世の城造りは大急ぎ」です。明日、攻めてくるかもしれない敵を防ぐために、現地調達できる、ありあわせのマテリアルと技術で、実用的なものを造る。その切羽詰まったような必死さが、土の城の最大の魅力。
たとえば山城であれば、堀切(ほりきり)が敵を防ぐ基本アイテムになります。堀切とは、山の尾根を断ち切るように掘った空堀。敵は、尾根づたいに登ってくるからです。
切岸(きりぎし)も、土の城のもっとも基本的なアイテム。これは、山腹を削り落として造った人工の崖です。曲輪の縁には、土塁(どるい)を築くこともあります。土を盛って造った、戦闘用の土手のことですね。
堀を渡って曲輪に出入りするのには、木製の橋=木橋も使いますが、土橋(どばし)もよく使います。土橋は、堀の一部を掘り残すだけでできるので、材料費はタダ。むしろ、掘る手間が省けてラッキーなくらい。手間もコストもかけずに実用的なものを造る、という戦国の城づくりにピッタリなアイテムといえます。
そうそう、戦国の土の城特有のアイテムとしては、竪堀(たてぼり)というものもあります。これは、斜面を縦に下ってゆく空堀です。堀切・切岸・竪堀などは、言葉で説明しただけでは、ピンとこないかもしれませんね。でも、実物を目にすれば「ははあ、なるほど、これか」と納得できますよ。
と同時に、「これを突破するのは、なかなか難しいぞ」と感じることでしょう。土の城の空堀や切岸は、たいがいの場合、近世城郭の水堀や石垣ほどのスケール感はありません。でも、その分、城内から城兵が鑓(やり)を突き出したら、刺さりそうで怖いです。
壮大な高石垣や天守とちがって、土の城の空堀や土塁は、いかにも人が手作業で、せっせと掘ったり積んだりしたイメージがダイレクトにわきます。土木量にせよ、戦いの情景にせよ、「肌感覚で伝わってくる生々しさ」が、土の城の魅力といえます。