東京高等検察庁がある中央合同庁舎第6号館

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

 この原稿を書き始めようとしたときに、国家公務員法改正案と検察庁法改正案の今国会成立見送りという速報が飛び込んできた。この改正案は、国家公務員と検察官の定年を65歳に引き上げるもので両法案を一本化した、いわゆる「束ね法案」として国会に提出されていた。

 定年を65歳まで引き上げることに対しては、野党も賛成を表明している。問題になったのは、“内閣や法相が必要と判断した場合、検察幹部の定年をさらに最長で3年延長できる”特例規定が盛り込まれていたことだ。これは検事総長人事などを時の政権が恣意的に行えるようにするものである。

 これには野党はもちろん、元検事総長などの検察OB、芸能界からも反対の声が上がり、どの世論調査でも圧倒的に反対が多数を占めている。今国会での見送りは、これらの反対世論に押し込まれた結果である。だが、いま判明していることは、「今国会での成立見送り」ということだけである。撤回まで手をゆるめてはならない。

すでに検察の恣意的人事を行なっている安倍内閣

 なぜここまで急速に反対世論が高揚したのか。この問題の発端は、安倍内閣が今年(2020年)1月末に、黒川弘務・東京高等検察庁検事長の定年延長を閣議決定したことだった。

 昭和22年に制定された検察庁法には、その第22条で、「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」ということだけが定められている。定年延長の規定などないのだ。現行の検察庁法に基づけば、黒川氏の定年延長はあり得ないことなのである。そこで定年延長が認められている国家公務員法を使って、黒川氏の定年延長を図ったのが1月の閣議決定なのである。