「未知のウイルス」の情報収集に完全に出遅れた日本

 今回の日本の対応については、「感染拡大阻止のための初期対応としてはすでに手遅れで、未知のウイルスに対する情報収集に出遅れ、危機意識も低かった」とし、今後は、可能な限りの感染拡大阻止のために、「現状行っている外出や集会自粛などの措置の強化、徹底とともに、治療薬開発を急ぐことなどが現実的だ」とする。

 そのうえで、将来の同様の危機に備え、国レベルの対外情報収集力の強化をはじめ、「収容人員300人規模でもいいので、感染者やその疑いのある人を隔離できる病院船を3隻くらいは整備すべきではないか」と提言。横浜港停泊で世界的に注目されたクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の場合は英国船籍でもあり、またクルーズ客と、これをもてなす従業員らの意識が、感染者が出た後も切り替えられないまま船内で感染拡大したが、「感染者らを完全に隔離して医師らが対応しやすいような設計にする。平時は観光船などとして経済的に維持・管理し、自然災害などを含め、有事の際の病院船、隔離施設とすることを検討してもいい」と主張した。

 台湾出身の杜氏は、日本統治時代の1930年生まれ。父は台湾人初の医学博士号取得者として知られる杜聡明氏(1893~1986)だ。自身は化学者を志し、戦後は台湾大を卒後に渡米。スタンフォード大(博士)などで学んだ。

 専門のヘビ毒研究を下敷きに、長く米軍に協力し、毒素兵器、生物・化学兵器などに詳しく、オウム真理教によるサリン事件では、日本の警察に協力してサリン検出法などの情報を提供。こうした功績から2009年に旭日中綬章受章している。

杜祖健氏(筆者撮影)

 また研究目的で2011年以降は、オウム真理教の教団内でサリン製造の中心人物であり、VXガス殺人事件にも関与した死刑囚と、刑執行直前まで面会を重ね、著書『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』(角川書店)などで事件の真相に迫った。

 2017年にマレーシア・クアラルンプール国際空港内で発生した金正男氏暗殺事件では、現場の映像をもとに、神経剤「VX」の顔面塗布方法が、実行したベトナム人女性、インドネシア人女性によって、それぞれ異なる種類の薬品を顔面上で混合させる手法であったと分析し、再び軍関係者らから注目された。