(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2019年のノーベル物理学賞が10月8日(日本時間)に発表されました。今年は宇宙物理学関連の2分野3氏が受賞しました。
アメリカ・プリンストン大のジェームズ・ピーブルス名誉教授(1935-)が、「宇宙論における理論物理学上の発見」で2分の1を受賞し、残る2分の1をスイス・ジュネーブ大のミシェル・マイヨール名誉教授(1942-)とディディエ・ケロー教授(1966-)が「よその恒星を周回する惑星の発見」で分け合いました。
天文・宇宙物理学分野にノーベル物理学賞が分配されるのは、(最近やや増加の傾向がありますが)3〜4年に1回程度の珍しい出来事です。宇宙と天文が大好きなこの連載としては、めでたい受賞を大喜びで解説いたします。
ピーブルス名誉教授と宇宙論のバイブル
「宇宙論」とは物理学の一分野で、この宇宙がいつどのように始まったか、宇宙全体がどのような構造を持つか、といったことを研究します。この哲学的で格好いい学問は、宇宙の存在する理由を明らかにすると期待されますが、今のところまだその答は得られていません。
今回ノーベル物理学賞を受賞したピーブルス名誉教授は、もちろんこの分野に大きな貢献をしてきたことで名高いのですが、それに加えて、何冊もの宇宙論の教科書の著者として、業界では有名です。それらの本は後のものほど厚くなり、1993年に出版された『Principles of Physical Cosmology(物理的宇宙論の原理)』に至っては700ページを超える大著です。
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宇宙論を先導してきたピーブルス先生によるこれらの本は、この分野を学ぶ学生や研究者の必読書です。筆者もこの教科書で勉強しました。宇宙論のバイブルと呼んでいいでしょう。この受賞を機に、先生の名著が邦訳されることを期待しましょう。