(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2019年11月13日、デンマーク自殺防止研究所のアンネット・エーラングセン氏らの研究グループが、同性愛者の自殺率に関する調査結果を発表しました*1。
同性愛者の自殺率は異性愛者に比べて高いことが知られています。これは周囲の偏見、烙印、差別などにさらされるためと考えられています。
ところが今回、同性婚経験者の自殺率を調べたところ、約14年間で半減していたことが分かりました。
半減の原因はまだ明らかではありませんが、もし同性婚を制度化することによって自殺を減らせるならば、これは朗報です。現在の社会で深刻な生きづらさを感じ、死を考えている多くの人々を、同性婚の制度化が救うかもしれないのです。
そうした制度があれば救われたかもしれない人として、真っ先に思い浮かぶのが、英国の天才数学者アラン・チューリングです。
最初のコンピューター科学者であり、ナチスの暗号を破った英雄である、チューリングの業績と悲劇について解説しましょう。
北欧では同性愛者の自殺が減少中
まず、この統計調査『デンマークとスウェーデンにおける同性婚と異性婚経験者の自殺 1989ー2016:2国の婚姻届に基づく統計調査』*1について、簡単に説明しておきます。
これまで、同性愛者の自殺率は高いといわれていましたが、正確な調査は困難でした。多くの場合、自殺者が同性愛者かそうでないか、判定できないからです。
しかし近年、同性パートナーシップや同性婚を制度化する国が増え、そのため、この制度の利用者に対する統計的調査ができるようになりました。(異性婚の届け出をした人が異性愛者かというと、そうとも限りませんが、研究において重要なのはサンプルを正確に定義できることです。)