安倍首相は、全世代型社会保障の構築をうたっているが、世代間の格差も問題である。負担と給付の関係では、年金など高齢者に比べて現役世代が不利になったり、少子化対策に十分な財源が確保されなかったり、すでに多くの問題が指摘されている。世代間の格差である。

 老後2000万円不足問題が大きな話題となったが、高齢者の間でも格差が広がっている。富裕な高齢者層に負担を求めるかどうか、資産課税強化とともに避けて通れない問題である。

 長寿化の進展によって、医療・介護に対するニーズも高まってくる。負担増や給付削減という国民が嫌がる政策を実行できるのかどうか。金は天から降ってくるわけではない。消費税を全額社会保障財源とすることを明確にすることによって、負担と給付の関係が分かりやすくなり、徴税にも経費削減にも支持を獲得できる。25%の消費税を有権者が容認している北欧諸国の例は参考になる。

進展しなくなった北方領土交渉

 第三に、外交については、安倍首相が期待するような成果はまだ出ていない。

 日ロ関係については、9月5日にもウラジオストクで日露首脳会談が行われたが、北方領土・平和条約交渉は何の進展もなかった。

 北方領土の色丹島に、ロシア企業が大規模水産施設を稼働させ、ウラジオストク滞在中のプーチン大統領がビデオ中継で祝福している。安倍首相との首脳会談直前に、このようなことを敢行することは、歯舞、色丹の二島すら返還する意図がないことを示すためである。

 6月22日には、プーチン大統領は「島を引き渡す計画はない」と述べているし、メドベージェフ露首相は8月に択捉島を訪問している。また、北方領土における軍事力を強化している。

 ベストのシナリオは、「まず平和条約締結、そして二島返還、その後に四島を取り戻す」ということであろうが、1956年の日ソ共同宣言以降は、平和条約が存在しているのと同じ状況にあり、日露両国民とも何の不便もない。形式的には、平和条約締結が「戦後外交の総決算」となるのかもしれないが、実質的にはほとんど意味の無いことである。

 ロシアには国後・択捉を返還する意思はないので、二島先行返還論は、結局は二島のみ返還になってしまう。交渉が順調に進む前提は、プーチン大統領の権力基盤が強固であることだが、黄信号が灯り始めている。

 そして、アメリカ政府の意向も問題となるが、ロシアが絶対に避けたいのは、返還した北方領土に米軍が展開することである。安倍首相は、米軍を駐留させないという確約をトランプ政権から得ることができるのだろうか。