拉致問題については、改造人事の際には話題にすらならなかった。日朝首脳会談も開かれていない。対北朝鮮強硬派のボルトン補佐官が解任されたが、再選を狙って功を焦るトランプが金正恩に対して融和政策を展開する可能性も否定できない。
その関連で、イランをはじめとする中東政策にも何らかの変化が出るのかもしれないが、日本政府がアメリカとイランとの仲介に積極的な役割を果たしたとは言いがたい。
反日・親北朝鮮の文在寅政権との関係は最悪である。日韓関係の改善への方策が全くない状況を、新内閣ではどのように改善していくのであろうか。外相には茂木経済再生大臣が就任し、河野外相は防衛大臣に横滑りした。河野外相を閣外に出すと、謝ったメッセージ、つまり日本が軟化したというシグナルになることを恐れたとされている。
非は第一義的に韓国にあるにしても、日本政府にももう少し柔軟な姿勢が求められているのではあるまいか。
「お友だち」に任せたから進まなくなった憲法改正論議
第四は、憲法改正である。安倍首相は、内閣改造に当たって、改憲を実現する意欲を示したが、国会の憲法審査会での議論もできていない状況である。その最大の理由は、憲法の素養があり、野党とも謙虚に議論できる政治家を担当にするのではなく、単に思想的に自分に近い「お友だち」に任せたからである。下村博文推進本部長がそうであり、今回の改造で選対委員長に昇格した。後任には細田博之元幹事長が起用された。前任者の失敗を繰り返さないことが重要だ。
衆議院の憲法調査会長には佐藤勉元国体委員長が就任する予定であるが、同様な注意が必要である。
私は、憲法を改正すべきだという考えだが、現在の状況では、実現できるのかどうか、懸念している。とくに第9条については、なし崩し的に集団的自衛権を認め、今では航空母艦すら保有できるようになっている。戦力を持たず、国の交戦権も認めない憲法の下で、これだけのことができるのなら、改正の必要はないことになる。政治的に賢い方法で、実質的に憲法を改正してきたのである。ただ単に自衛隊について記す条項を加えるだけなら、改正する意味はほとんどない。
しかも、Brexitを決めたイギリスの国民投票を見ていると、ポピュリズムの持つ危険性を感じざるをえない。国民投票法は、公職選挙法よりも規制が少なく、自由な運動が可能である。プロパガンダに抗するだけの知識と沈着さを今の日本国民に求めるのは無理である。国の根幹である憲法を国民投票で決める危険性についても冷めた認識が必要である。
以上のように、改造内閣には、小泉進次郎人気では補いきれない数多くの試練が待っている。日本が歩む道も決して平坦ではないのである。