ヤフーによるZOZO買収と、自身の社長退任を発表する前澤友作氏(筆者撮影)

(大西 康之:ジャーナリスト)

 ヤフーが衣料通販サイト大手、ZOZO(ゾゾ)を買収する。ヤフーはTOB(公開買い付け)を実施し、ゾゾの創業者、前澤友作が保有する同社株37%の大半を含む50.1%の買い取りを目指し、ゾゾを子会社にする。43歳の前澤は突然ZOZOを去る理由を「どうしても宇宙に行きたいから」と説明したが、それは前澤一流の「ストーリー」に過ぎない。高校を卒業してバンドマンになり、CDの通販から始めた事業を、ネット上の一大ファッション帝国にまで育て上げた前澤の手腕は見事だったが、今回の前澤の退任劇は、優れた起業家が必ずしも良い経営者ではないことを示している。

ゾゾ子会社化で「国内ECナンバーワン」へ弾みつけたいヤフー

 最後までトリック・スターらしい幕の引き方だった。

 9月12日、午後5時30分、前澤が、東京・恵比寿にあるウェスティンホテル地下の記者会見場に姿を現した。一緒に現れたヤフー社長の川邊健太郎と、ZOZO新社長の澤田宏太郎はスーツだが、前澤はTシャツ姿。胸には「Let’s Start Today(今日から始めよう)」の文字が見える。ゾゾの創業時の社名は「スタートトゥデイ」。仕込みは十分である。

 最初に登壇したのは川邊。ヤフーによるゾゾ買収が、両社にとっていかに有意義であるかを熱弁した。キーワードは、前任の社長で東京都副知事の就任が決まった宮坂学が掲げた「爆速経営」をもじった「爆増」。協業で両社の顧客数、取扱高、営業利益が「爆増する」とぶち上げた。目指すは国内EC(インターネット・ショッピング)ナンバーワンだ。

川邉健太郎・ヤフー社長(筆者撮影)

 2019年に両社が計画している営業利益を足すと1020億円となり、前年のヤフーの実績に比べ1.8倍になる。確かに「爆増」に見えるが、楽天は2018年度実績ですでに営業利益1700億円を実現している。ただ二社を足すだけで楽天、アマゾン・ドット・コムを抜くのは難しそうだ。