2018年9月、米スペースX社が計画している月面周回旅行で、ロケットの最初の搭乗者であると発表された前澤友作氏(写真:AP/アフロ)

 2018年9月、一人の日本人経営者が世界中で話題となった。「ZOZOTOWN」で知られるファッション通販大手、株式会社スタートトゥデイから社名を変更した株式会社ZOZO(以下ゾゾ)の創業者であり、現社長の前澤友作氏が月へ宇宙旅行に行くとアメリカで公表したからだ。

 本業でも全身タイツのようなボディスーツで体の寸法を測ってオーダーメイドの洋服を製造・販売するゾゾスーツが大きな話題になったが、現在では「月旅行へ行く社長」、最近では「ツイッターで1億円のお年玉を配った人」と説明した方が分かりやすいかもしれない。

 一部では1000億円かかるとも報じられている宇宙旅行にポンと財布を弾める前澤氏の個人資産にも注目が集まっている。なにしろ宇宙旅行以外にも、数十億円に上る美術品やバイオリン、100億円の豪邸など、豪快なお金の使いっぷりで度々話題となっているからだ。

 執筆時点でのゾゾの株価に株数を掛け合わせた同社の時価総額(企業としての値段)は6800億円程度となる。国内の時価総額ランキングを見ると180位前後に位置し、コンビニチェーンのローソン、カメラメーカーのニコン、精密機器の島津製作所、製造小売りの良品計画など、歴史ある大手企業と肩を並べる水準にある。

 そして創業者である前澤氏の株の持ち分は37.94%で、おおよそ2500億円と巨額な個人資産だ。企業としてのゾゾも売上高が2018年3月期には約984億円、純利益は約201億円と利益率の高い優良企業である。

 なぜゾゾはここまで急成長したのか? そしてなぜ前澤氏は一代でここまでの資産を築くことができたのだろうか?

ゾゾタウンの「平凡」なビジネス

 前澤氏のプロフィールは「異色」の一言だ。

 進学校に通っていた頃からバンド活動に明け暮れ、卒業後はプロデビューを果たす。並行して趣味で行っていた個人輸入のレコード販売が当り、年商1億円にまで達する規模となる。そしてバンド活動と通信販売の二足のわらじを経て、2001年にはより大きな可能性を感じた通信販売の経営者へ舵を切る。後に洋服も扱うようになったこの通信販売が、現在のゾゾタウンの前身となる・・・。

 多少でもゾゾタウンや前澤氏に興味がある人ならば、断片的でも聞いたことがある話だろう。ただ、異色の社長・前澤氏が経営するゾゾは主に洋服の通信販売を行う企業だが、何か特別な事業を行っているようには見えない。要するにアパレルのネット通販だ。

 2018年3月期のゾゾタタウンの取扱高は2700億円*を突破して急激に成長しているが、誤解を恐れずに言えば事業自体は「平凡」と言っても差支えは無いだろう。今時、ネットで洋服を売る企業はゴマンとある。

*受託販売の売上総額。

 しかし、これは「今現在の常識」で見た場合の話だ。忘れてしまっている人も多いかもしれないが、ほんの少し前までネットで買い物をすることには多少なりとも違和感があった。そしてその違和感は、短期間で「ほぼゼロ」になってしまったのだ。