WEARというロック魂

 ゾゾタウンに関して、個人的に最も気に入っている逸話が「WEAR騒動」だ。

 ファッションアプリ・WEARは2013年にサービスを開始している。現在ではファッションスナップに特化したSNSで、一般人からモデル・芸能人まで多種多様な人がアップロードした写真を見てコーディネートの参考にできる。そしてそのままゾゾタウンでも買い物ができるアプリだ。

 WEARISTA(ウェアリスタ)といって、特に人気がある人はWEAR公認モデルのような存在となり、ウェアリスタが着た服は一瞬で売り切れてしまうこともある。さながらカリスマモデルだ。

 しかし当初WEARの最も重要な機能は、アパレルショップの店頭で洋服のバーコードを読み取り、お店で買うか後でゾゾタウンで買うか、じっくり検討できるという仕組みだった。これは店頭で実物を見てからネットで買う、いわゆる「ショールーミング」を推し進めるもので、当然のことながら百貨店やファッションビルからは猛反発を受けた。ルミネに至っては全店舗で撮影禁止、つまりWEARを使えないように締め出した。

 結局このバーコードを読み取ってゾゾタウンの販売につなげる機能は、パルコなど一部店舗とは実験的に提携はしたものの、反発の大きさに継続は難しいと判断したのか、後にサービスを中止することになる。

 今改めてWEARがやろうとしていたことを考えると、ネットや店頭の区別無く販売につなげる「オムニチャンネル」や、オンラインで集客して実店舗への来客を促す「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」の発想を先取りしており、再度同じ機能が復活すれば今度は協力したい企業が殺到するようにも見える。

 WEARの最も重要なバーコード読み取り機能が使えなくなった際には、個人的には完全にこのアプリは失敗に終わったと見ていた。「ツイッター、フェイスブック、インスタグラム等がすでに使われている状況で、ファッションに特化したSNSに需要があるのか?」と思ったのだが、結果として現在では1000万ダウンロードを超え、多数の利用者がこぞって写真をアップロードすることでゾゾ利用者のすそ野を広げ、売り上げ拡大に貢献したのだ。

 WEARの当初のサービスは常識的に考えれば事前に根回しするのが当然だが、「そんなことをやっていたら何年かかってもサービスを開始できない」と考えたのだろう。良くも悪くも常識にとらわれない前澤氏の「ロック魂」が現れたトラブルとも言える。この会社はとんでもないことをやるな……と個人的に強く印象に残った出来事でもある。

資産家になれたのは貯金したからではない

 売り上げや利益の額を見ればゾゾが企業として大成功したことは間違いない。しかし、それにしても前澤氏の数千億円という個人資産は多すぎやしないか? どこからお金が出ているのか……? そんな疑問を感じた人もいるかもしれない。

 アメリカの経済誌・フォーブスの長者番付では、上位に保有資産が円換算で兆単位の資産家が並ぶ。そのほとんどが創業して会社を上場させた経営者か、あるいは親から会社を引き継いだ2代目、3代目が占める。桁違いのお金持ちを目指すには起業して上場させることが最短ルートであることは間違いない。

 多額の収入を得ている職業としてスポーツ選手や歌手等もあるが、年収は世界トップクラスでも数十億円から百億円程度だ。この収入でも兆単位まで資産が増えることは無い。なにしろ、それだけ稼げる全盛期はマドンナのような例外を除けば極めて短いからだ。