現代のアメリカを代表する起業家、イーロン・マスク氏が危機に直面している。過去1週間のうちに、傘下の2社が相次いで大幅な人員削減を発表。大型債務の返済期限を前に、綱渡りの経営が続く。一見、実現困難な事業計画を打ち上げて、投資家に「夢」を売る形で資金調達して築き上げてきたマスク帝国は岐路に立っている。
目前に迫った転換社債「9億2000万ドル」分の償還時期
18日、マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務める電気自動車(EV)のテスラは、従業員の7%を削減すると発表した。同社が具体的な人数は公表していないが、3000人以上が人員削減の対象になるとみられている。「我々の製品は、まだ大半の人たちにとって高すぎる」。マスク氏は大幅な人員削減を行う理由を従業員向けの電子メールのなかでこう説明した。悩みのタネは、同社初の量産車種「モデル3」だ。
「シリコンバレーで成功したエンジニアが好む高級車」というイメージが定着しているテスラだが、マスク氏が目指すのは電気自動車の大衆化だ。だが、この計画はいばらの道だった。昨年、夜眠れなくなる理由に「モデル3の量産」を真っ先に挙げた。
2016年にガソリン車並みの価格で手に入るテスラとしてモデル3の販売計画を打ち上げると、米消費者から高い関心を集めて予約が殺到した。だが、量産体制の構築に手間取ったうえ、体制を整える過程で従業員数が急拡大。去年1年間で約3割増えた。それでも、まだ廉価版のモデル3の生産は実現できていない。現在までに生産したモデル3は収益性を重視した高価格帯の車に限られる。
「ほかに方法はない」。マスク氏は、廉価版の実現に向けたコスト削減には人員削減しか方法はないと説明する。テスラにとって、人員削減は18年6月の9%減に続いて1年間で2回目。より少ない人員でいままで実現できなかった大量生産に取り組もうという戦略には、自らも「大変な困難と努力と、少しの幸運が必要」とやや自嘲気味に指摘する。