やがて前澤の独白は社員の話になり「21年間、至らぬ僕を支えてくれて、楽しく、ともに」と話したところで、絶句。「あー、やばい!」と涙をこらえた。
退任のタイミングを逃さないのはさすが
涙を誘った後は、気を取り直してスペシャル・ゲストの登場だ。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義である。前澤と色違いのTシャツを着た孫は「経営者としても男としても大好き」という前澤を「月に行きたいし、彼女とも楽しくやりたい。自由奔放でいい。生き様がかっこいい。羨ましい限りだ」と持ち上げた。今回の買収が、前澤が「新しい人生を歩みたい」と孫に相談を持ちかところから始まったことも暴露した。
記者会見は終始「前澤が宇宙に行きたいから、ゾゾの経営をヤフーに委ねた」というストーリーを軸に進められた。だがそれを真に受ける関係者は少ない。会社の規模が大きくなり、上場も果たして、ゾゾは起業から経営のステージに入った。澤田が言う「大人の会社」になったゾゾの経営は、現代アートを100億円超で買い、宇宙旅行のチケットを買い、人気女優で浮き名を流す前澤の手に負えなくなっていたのかもしれない。
それでも前澤は「前澤フルコミット」の中期経営計画で、難局を乗り切ろうとしたが、打ち出した施策のほとんどが、のっけからつまずいた。これ以上、ゾゾに居座っていたら、会社の価値も下がるだろうし、経営者としての前澤の評価も下がっただろう。その意味で、逃げ時を間違えなかったのは、さすが野生児と言うべきかもしれない。
だが高卒バンドマンから起業して、43歳にして売上高1180億円の会社を作り上げた手腕は、素直に讃えるべきだ。宇宙旅行だろうと女優とのランデブーだろうと、自分で稼いだ金を使うのに文句を言われる筋合いはない。
今回の買収で前澤が手にする金は2400億円前後とみられる。その大半は借金の担保になっていると言われるが、それでも巨額の資金が手元に残るのは間違いない。第二の起業でもう一山、当てるか。世間をあっと言わせる社会貢献に使うか。前澤が「ジャパニーズ・ドリーム」の体現者になれるかどうかは、その金の使い方にかかっている。