現在では、大小のブラックホールがいくつも発見されています。ブラックホールの実在を疑う人は(ほとんど)いません。
中でもSgr A*は、独特の研究手法で存在が確かめられた超巨大ブラックホールです。
超高精度角度分解能で天の川銀河中心を観測
太陽系から2万5600光年離れたSgr A*近傍、天の川銀河の中心部は、恒星の密集地域です。そこでの恒星間の典型的な距離は約1000天文単位で、これは太陽と太陽系外縁天体の距離程度です。あまり密集しているように聞こえないかもしれませんが、これは恒星と恒星の距離としてはぶつかりそうなくらいの密集度です。
それほど遠くのそれほど細かい様子を観測するには、超絶高精度の角度分解能が必要です。角度分解能の優れた望遠鏡で天の川銀河の中心部を観測すると、ぼやっとした像がいくつもの恒星に分解されます。21世紀には大型望遠鏡と「補償光学」の組み合わせによって観測が可能になりました。
補償光学とは、観測している間に大気のゆらぎによって生じる星の像の乱れを、それに応じて鏡の形状を変えるなどの手法で補正する技術です。何だか手品のような技術ですが、現在では地上の大型可視光望遠鏡や赤外線望遠鏡に必須となっています。
観測中の大気のゆらぎは、ガイド星と呼ばれる、観測対象とは別の星を監視して測定します。レーザーで大気のナトリウム層を照らして人工ガイド星とすることが多いです。
余談ですが、この補償光学が望遠鏡に実装されることにより、観測データの質の向上に加え、観測中の天文台の姿がカッコよくなるという副次効果が生じることになりました。
以前は、観測中の天文台を外から見ても、ドームのスリットがちょびっと開くくらいの地味な変化しかなく、どこを観測しているかもよく分かりませんでした。けれども補償光学システムが稼働すると、鮮やかなナトリウム色のレーザーが夜空を切り裂き観測方向を指し示します。マウナケア山頂の天文台群が同時に補償光学システムを動かすと、山頂の光景はまるでコンサート会場のようになります。