超巨大ブラックホール自体は(おそらく)光も物質も出さないのですが、ブラックホールに落ちる物質(主に水素ガス)は、その極端に深い重力ポテンシャル中で、超高温に熱せられて光ります。一部の落下物質は逆に吹き飛ばされ、光に近い速度の「宇宙ジェット」を形成したりします。

 宇宙にたくさんある超巨大ブラックホールの中には、周囲の物質をどんどん飲み込んでいる最中のものもあり、そういうものはX線やガンマ線や可視光線や赤外線やジェットを噴射して、数千万光年の彼方の観測装置に「ここにモンスター級ブラックホールがいるよ」と知らせてくれるのです。

 そういう活発に活動する超巨大ブラックホールは、歴史的に、さまざまな観測装置によってさまざまな異なる天体現象として発見され、「クエイザー」「BL Lac(ビーエル・ラック)天体」「セイファート銀河」「電波銀河」「ジェット銀河」などと、てんでんばらばらな名前で呼ばれてきました。ここではまとめて「活動銀河核」と呼んでおきます。周囲の物質を飲み込んで電磁波や物質を放射する超巨大ブラックホールがすなわち活動銀河核です。

Sgr A*が動きだした!?

 さて我らがSgr A*は活動銀河核ではありません。今観測されているのはSgr A*の2万5600年前の姿なので、少なくとも2万5600年前にはSgr A*は活動銀河核ではありませんでした。これは、Sgr A*に落ち込むガスや恒星などが現状では少なく、活動銀河核として活動するための燃料が供給されていないためでしょう。

 さてさて、前述のUCLA銀河中心研究グループの杜亨駿(Tuan Do)博士らが、先日2019年5月にSgr A*の赤外線観測を行なったところ、この超巨大ブラックホールが観測史上最高の明るさで輝いているのを見つけました*1

*1:Tuan et al., 2019, “Unprecedented variability of Sgr A* in NIR”, to be appeared in ApJ Letters.

 赤外線写真から作られた動画を以下に示します。Sgr A*は明るいだけでなく、その放射は激しく変動し、見る間に75分の1に減りました。したがって、観測直前にはもっと明るかったと思われます。

【画像をクリックして動画を再生】 超巨大ブラックホールSgr A*の赤外線放射の時間変化。2.5時間を圧縮。ケック望遠鏡で2019年5月13日(協定世界時)に撮像。 (提供:杜亨駿(Tuan Do))