一部の「エナルク」たちが一生を公務員として過ごすわけではなく、民間に天下りして甘い汁を吸っている現実も、国民の厳しい視線にさらされている。ENAが2015年に行った調査によると、政府機関から官民企業への転職経験がある卒業生は全体の22%で、公共部門を完全に離れた人も、多くはないが8%いた。

大衆の敵意の対象となった超エリートたち

 一方、行政府の上層へ目を転じると様相が異なる。卒業後直ちに国務院(行政訴訟を取り仕切る最高裁、政府の法律諮問機関)や会計院(国の会計を取り扱う裁判所)、財政検査総局(経済財政省傘下の予算監視機関)といった政府中枢の機関に配属される成績トップに限ると、民間勤務の経験者は75%に達し、34%はキャリアの半分以上を民間で過ごした。

 こうした高官たちにあてがわれる民間ポストが極めて高額の報酬を用意することは言うまでもない。マクロン氏自身もロスチャイルド銀行勤務時代に、3年間に税込み280万ユーロ(約3億5000万円)の報酬を得ていたことが知られている。要職であればあるほど、政権交代に伴う「政治任用」のケースが増え、官民人材交流のチャンスも増える。

 このような「エナルク」は、大衆から「汗をかかずにうまい汁を吸う、憎むべき対象」と見られ、敵意の標的となる。マクロン氏が大統領就任後まもなく富裕税を廃止したことに多くの国民が憤り、「黄色いベスト」の最大の要求事項のひとつとなったことは、こうした実態と無縁ではない。

【写真特集】終わりの見えないフランス「黄色いベスト」運動

フランス・ナントで行われた「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動で発煙筒をたくデモ参加者(2019年5月11日撮影)。(c)AFP/Sebastien SALOM-GOMIS〔AFPBB News

 では、ティリエ氏はどのような案を答申するのだろうか。ENAを廃止したら、中央官庁の幹部や県知事・副知事、大使といった要職をどんな人材に委ねるのか。あるいは、難関を突破して重責を担うための努力を積んだ優秀な人材を、政府はもはや受け入れないのか。そんな議論が飛び交っている。