金正恩委員長の実妹で、実質的な「秘書役」を務める金与正・党宣伝扇動部副部長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 この1年半、「休火山」だった「北朝鮮火山」の噴火が突如、始まった。5月4日に続いて、9日にも北朝鮮が、短距離弾道ミサイルを発射した。日本では、誰に気兼ねしているのか、「飛翔体」などと一部で表現されているが、私は周辺国の専門家に確認した上で、あえて「ミサイル」と書く。

 なぜ北朝鮮は、突然立て続けにミサイルを撃ったのか。これには諸説、飛び交っているが、私は最大の理由は、北朝鮮の苦しい国内事情にあると見ている。

大勢の餓死者が出た「苦難の行軍」の再来か

 先日、北朝鮮から戻ったばかりという中国人に話を聞いたら、「こんなに苦しい春は20数年ぶりに見た」という。

 北朝鮮では昔から、「春楽夏苦秋楽冬苦」だ。気温が零下20度前後まで下がる冬を、暖房なしで凍死せずに何とか耐えると、春を迎える。春には「太陽節」(4月15日の金日成主席の誕生日)があって、国民にごちそうが振る舞われる。ところが夏になると、前年に収穫したコメが底をついてきて、食糧難になる。だがそれを何とかしのぐと、収穫の秋を迎えるのだ。

 1995年から1997年まで、北朝鮮に「苦難の行軍」と呼ばれる飢饉が起こり、100万人以上が餓死した。前出の中国人によると、いま北朝鮮に「第二の苦難の行軍」が始まりつつあるという。

「すでに『革命の首都』平壌にも、スラム街ができているのだ。お上が『社会主義国の人民の権利』と喧伝している食糧配給は、完全にストップし、『太陽節』の特別配給もなかった。

 前回の『苦難の行軍』の頃は、朝鮮戦争経験者が多く生存していたので、何とか耐えられた。だが、その時代に栄養失調で生まれ育った人たちが、いまの若者たちで、金正恩への忠誠心など皆無だ。